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人形は楽しんだ。――自分だけの神様と暮らす日々を
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「じゃ、これ買うか!」
紫色のソファの上に座って、零次は言う。
「うん!」
零次と同じようにソファの上に座って、俺は頷いた。
――ん?
「零次、髪は紫色にしようと思わなかったのか?」
「ああ。この色の方が、チャラさが強調されるかと思ったから」
零次の発言に俺は顔を顰める。
聞かなければよかった。
「聞かなければよかったと思ってるだろ」
「だって、まさかそんな答えが返ってくると思わなかったから。女子に申し訳ないとか思わないのか?」
眉間に皺を寄せて、呆れ顔で俺は言う。
「だってみんな了承してるし」
「本気で好きだけど、しょうがなく了承してる奴もいんじゃねぇの?」
「いねぇよ、そんな奴。もしいたら、即切る。愛なんてめんどくさいだけだし」
返す言葉も見つからず、俺は押し黙る。
「ああもうやめようぜこんな話! 気分悪くなるし! 俺ちょっとソファの会計してくるわ! 海里はここで待っててー」
黙った俺を見てから零次は頭をバツが悪そうにぐしゃぐしゃと掻いて、会計に行った。
会計を終えると、俺と零次はホームセンターの二階にあったフードコートにたこ焼きを食べに行った。
たこ焼きはねぎやてりたま、明太マヨなど通常のマヨネーズとソースのトッピングの他に、色々な味のトッピングがあった。
「海里どれ食う?」
「どれ選べばいいのかわかんない」
全部食べたことないから味も見当つかないし。
「じゃあ甘いのと辛いのはどっちがいい?」
「甘いの」
「そしたらてりたまがいいんじゃないか?」
「てりたま?」
「そ。ソースがすごく甘いんだよ」
「じゃあそれにする」
「ん。俺は明太マヨにしようかなぁ。それで二人で食べ合いでもしようぜ」
「する!」
食べ合いなんてしたことないから思わず気分が高揚して、俺は声を上げて頷いた。
「ククっ。じゃあ俺注文してくるから、海里席選んでて。テラスと普通のテーブル席とあるから、好きなとこ選んで座って待ってていいよ。それで席決まったら俺にどこらへんか連絡して」
零次はそう言って、喉を鳴らして笑ってから、たこ焼きの列に並ぼうとした。
列は十人ほど並んでて、注文するだけでもだいぶ時間がかかりそうだった。
「注文だけなら、俺するけど?」
「いいから、選んで来い。テラス、見に行きたいんだろ?」
思わず頬が赤くなる。
――図星だ。
本当はテラス席でご飯を食べたことなんてないから、興味がわいてた。
「俺をごまかせると思うなよ? ほら、行った行った」
零次はそう言うと、俺を後ろから押して、テラスの入り口の前に追いやった。
「れっ、零次!」
「早くドア開けないと、後ろつっかえるぞ?」
軽口を叩いて、零次は笑う。
「……ありがと」
俺は零次に向かって小さな声で礼を言うと、入り口のドアを開けてテラスの中に入った。
テラスには鉄製の丸いテーブルの周りにこれまた鉄製の椅子が二つか四つ置かれたのと、長い木製のテーブルの両隣に、これまた長いベンチが置かれたのの二種類の席があった。
席は平日だからか、二人だけで長い机のを使っても、誰にも文句を言われなそうなくらいに空いていた。
一分ほど迷ってから、俺はテラスの真ん中らへんの長い机と、長いベンチがあるところに行って、ベンチの端に座った。
ラインで零次に席の場所を教えると、十分もしないうちに、誰かが俺のいる席に無言で近づいてきた。
零次が来たのかと思って俺は顔を上げた。顔を上げたその瞬間、俺は固まった。人形みたいに。
俺の目の前にいたのは、なんと母さんだった。
母さんは割り箸と紙皿の上にたこ焼きが乗ったトレイを持っていた。
「は? か、母さん? なんでいんの?」
そう言うのに、およそ三分を要したと思う。それくらい俺は動揺していた。
母さんはそんな俺を見て、今にも泣きそうな顔をして笑った。
「か、海里、あのね……」
母さんがゆっくり、俺に近づいてくる。俺は慌てて立ち上がって、母さんと距離をとるかのように後ろに下がった。
「くっ、来んな! 人の幸せ壊しといて、のこのこ会いに来んじゃねぇよ!」
震えながら俺は叫ぶ。
叫んだ瞬間、テラスにいた人がみんな俺と母さんを見た。人が少ない分、よく声が響いたらしい。
「海里、落ち着け! 俺が呼んだんだ」
慌てた様子でテラスの出入り口から零次が出てきて、俺のそばに来る。
「零次が呼んだ?……まさか、一昨日か?」
「ああ、そうだ。お前は会いたくないって言ってたけど、俺はそれでも会った方がいいと思ったから、今日のお昼頃にホームセンターに来るように伝えたんだ」
「じゃあ服装とかの連絡はしてなかったのか? それでなんで会えたんだよ」
「確かに服装の連絡はしなかったけど、俺が白髪なのは伝えたから。フードコートにいる白髪の高校生くらいの男だってわかってれば、だいぶ絞られるだろ」
「余計な世話焼くな!」
「それがお前の本音か? 本当に何も話したくないのか?」
俺の肩に手を置き、しっかりと俺の目を見つめて零次は言う。
「……話したくない。話したいことなんてない」
「海里、本当にいいのか?」
「いい。話さなくて」
母さんがトレイをテーブルの上に置いて、俺に近づいてくる。
母さんが俺の目の前に来て、俺の手をしっかりと握りしめる。
「お願い海里。少しだけ話を聞いて」
俺は何も言わず、母さんの手を振りほどいた。
「海里、話だけでも聞いてやれよ」
零次が俺の肩を掴んで言う。
「お前はどっちの味方なんだよ!」
俺がいつ、母さんに会いたいなんて言ったんだ!!
「お前の味方だよ! 海里の味方に決まってんだろ? じゃなきゃ呼ばねぇ!」
零次が声を荒げて、俺の肩を必死で揺さぶる。
俺は自分の肩から零次の手をどかすと、何も言わずに席の方に戻って、ベンチに腰を下ろした。
「……ありがとう」
母さんは俺を見てそう言ってから、向かいのベンチに腰を下ろした。
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