アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
人形は楽しんだ。――自分だけの神様と暮らす日々を
-
「ん。生き返りは海里初心者だから、無制限でいいとして、対戦時間はとりあえず一分半でいい? あんま長くない方がいいだろ?」
零次が対戦形式を四人で戦うのに設定してから、俺に声をかけてくる。
「うん、それでいい」
俺はコントローラーを触りながら言った。
「オッケー。じゃ、海里キャラ選んで」
阿古羅が対戦の設定をいじって、キャラクターを選ぶとことまで画面を進めてから俺に声をかけてくる。
「うん」
「最初はキャラクターの使い方教えてやるから、二対二でコンピー倒そう。二人残ったら決勝戦になるから。決勝になるまでは、海里のキャラが死にそうになったら、できるだけ俺が守るから」
「わかった、ありがとう」
「ん」
『レデイ、ゴー!』
キャラクターとステージを選ぶと、機械音が響いて、対戦が始まった。
俺は対戦が終わると、コントローラーをぎゅっと握りしめた。
悔しい。零次が強すぎて、歯も立たなかった。
「海里、お前弱すぎなんだよ」
零次が笑いながら言う。
「うっさい! やるの初めてなんだからしょうがないだろ! むしろ、零次が強すぎなんだよ!」
俺は零次を睨みつけて、投げやりに言い返した。
「アハハ! まぁ、それもそうか。俺はゲーム好きの女とかとよくやってたからな」
「ふーん」
ゲームができる環境にいたのが羨ましいと思ったけど、口に出さなかった。
「海里、ピザ何頼む? 一枚で四種類食えんのとかにするか?」
零次はテーブルの上にあったスマフォを拾い上げると、ピザの店を検索して、店のHPに搭載されているメニューを俺に見せた。
「え? そんなのあんの?」
「ああ。このクワトロってやつ」
零次のスマフォには、本当に四種類の味を楽しめるピザが表示されていた。味はカルビとシーフードとBBQとマルゲリータだ。
「それにする!」
「了解! ちゃんと半分食えよ?」
元気よく返事をした俺を見て笑いながら、零次はピザを注文する。
ピザは三十分くらいで届いた。
俺と零次は会計を済ませると、すぐにピザの入った箱をテーブルの中央に置いて、飲み物と皿を箱の周りに置いた。
「海里、箱開けてみろよ」
零次がピザの箱を指さして言う。
「うっ、うん」
俺は恐る恐るピザの箱を開けた。
目を見開く。
マルゲリータのよく溶けたチーズ、BBQソースのかかった美味しそうな肉、油のついたカルビ。他の三種類のピザとは全然違うシーフードの独特な香り。
俺はほっぺたがおちそうなほど美味しそうなピザを見て、それぞれの香りを嗅いだだけで、涙が出そうになった。
こんなのあのまま地獄にいたら、絶対食べれなかった。
「海里、何泣いてんだよ。こんなんで泣いてたら、毎日泣くハメになるぞ?」
「毎日?」
「ああ。海里の人生はこれからどんどん楽しくなる。それを実感するたびに泣いてたら、毎日泣くハメになるぞ。少なくとも、俺といる間はな」
零次は笑って、俺の背中を撫でる。
「……俺の人生、すげえ楽しくしてくれんの?」
「ああ」
零次は当然だとでもいわんばかりに頷いた。
「ありがとう」
俺は涙を拭いながら、笑った。
「零次、俺、もう無理。食べれない」
弱音を吐きながらソファの背もたれに寝っ転がる。
ピザが十二等分に切り分けられているから六枚食べなきゃいけないのに、四枚でお腹いっぱいになってしまった。
「いや、食え。後に二枚だぞ?」
俺の隣にいる零次がソファから立ち上がって、テーブルの上にある切り分けられたピザを一枚とる。零次はそのピザを、テーブルの端に置かれている俺の皿の上に置いた。
「……いらない。残り、零次が全部食べて」
「そんなこと言ってっと、いつまで経っても太れないぞ?」
「うっ。じゃあ、後一枚だけ食べる」
それを言われると、言い返せない。
俺は皿を取って、どうにかしてピザを食べた。
「よくできました! じゃあしょうがないから、残りは俺が食ってやるよ」
そう言って、零次は笑いながら残りのピザを食べた。
俺はその後、一緒に暮らしているから放課後や登下校はもちろんのことだが、昼休みや十分休みなど、あらゆる時間を零次と過ごすようになった。その共有してる時間の中で零次が俺を連れていってくれたのは、ロブスターが上手い店、チーズハットグとかいうアメリカンドッグみたいな見た目のもの中に、何故かチーズが入っている食べ物の店など、俺からすればかなり新鮮な場所ばかりだった。そういうとこに連れてってもらえること自体が殆どなかった俺にとって、零次と過ごす日々は楽しいことばかり起きるとても最高の日々で、心の底から生きててよかったと思えるような日々だった。
そんな日々が訪れてからおよそ一か月半がすぎた十一月下旬のある日、俺は零次と一緒に遊園地の入り口の前で、咲坂と茅野と待ち合わせをしていた。
「あ、海里、これ」
二人で咲坂達を待っていると、そう言って零次は突然、被っていた紫色のキャップを俺の頭に被せた。
「何?」
「何って、傷かくしだよ。お前、奈緒ちゃん達に虐待のこと隠したいんだろ。それなら今日は一日中かぶっとけよ。お前の母親が送ってくれたやつの中に帽子なかったし、これ、お前にやるよ」
「あ、ありがとう」
「おう。渡すのが遅くなって悪いな。本当は同居を始めた日に渡した方が良かったよな」
「……いいよ。紫だから、渡しづらかったんだろ?」
「あ、バレてる? 俺のことよくわかってんじゃん」
零次はそう言って、嬉しそうに口元を緩ませて、俺の火傷していない方の肩に腕をのっけた。
「一か月半も一緒に暮らしてたら大抵のことはわかる。……お前、わかりやすいし」
「お前は何でそこで、そういう意地の悪い言い方すんだよ! せめて『仲良くなったからそれくらい簡単にわかる』とか言ってみろよ!」
不服そうに口を尖らせて、零次は俺の両頬をつねる。
「れっ、零次やめろ」
――ん?
俺は数メートル先にいる咲坂と茅野が足音を立てないようにして零次に近づいているのを見て、眉間に皺を寄せた。
あいつら、何してんだ?
「零次、やめなさい」
茅野が突然、背後から零次の肩を叩いた。
「いたっ!? 美和ちゃん? 今結構力入れただろ? 地味に痛いんだけど!」
零次は俺の頬から手を離して、痛そうに肩を触る。
「手加減しただけ感謝しなさい」
「いやなんで? 俺、少しふざけてただけじゃん!」
「アンタが言う少しは、全然少しじゃないのよ」
「キャハハ!」
「アハハハ!!」
俺と咲坂は茅野と零次の言い合いを見て、声を上げて笑った。
「海里くん、今日はよろしくね?」
頬をほんのりピンク色に染めて、咲坂は笑う。
「うん。よっ、よろしく、咲坂」
小さな声で、俺は頷いた。
「奈緒でいいよ? せっかく遊園地で遊ぶんだし、名前で呼び合おうよ。その方が、きっと楽しいよ」
「わっ、わかった」
俺は髪をいじりながら頷いた。
「海里、私も名前呼びでいいわよ。美和でいいわ」
茅野が俺と奈緒のそばに来ていう。
「うん」
俺は笑って頷いた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
31 / 103