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人形は楽しんだ。――自分だけの神様と暮らす日々を
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フードコートに向かっていると、急に零次のスマフォが音を立てた。
「悪い。俺、ちょっと外すわ。奈緒ちゃんたちに連絡しといて」
「ん、わかった」
俺が頷いたのを確認すると、零次は人気のない喫煙所のそばに歩いて行き、そこで電話を始めた。 俺はラインを起動して四人グループのトーク画面に飛ぶと、『奈緒、美和、ごめん。ちょっと電話長引きそうだから、二人で回っててくれる?』とメッセージを送った。
『わかった! じゃあ電話終わったら連絡してね』と、奈緒から返信が来た。
俺は『了解』とだけ送って、スマフォを閉じた。
近くのベンチに座って待っていると、零次は十五分くらいしてから、憂鬱そうな顔をして戻ってきた。
結構電話が長かった。
「電話誰?」
零次が暗い顔をしてるのが気になって、俺はついそう尋ねてしまった。
もしかしたら、あまり聞きたくないことかもしれないのに。
「あー父親。週に一回は電話くるんだよ。……意外と俺のこと気にしてくれてんの」
髪をいじりながら、目じりを下げて零次は言う。
「ふーん」
「じゃ、二人に連絡するか。……痛っ!」
零次は突然、足を触りながら痛そうに顔を顰めた。
「えっ。零次どうした? 大丈夫か?」
「……悪い、海里。ちょっと二人と合流するの時間置いてからでいい? さっきちょっと転びそうになって、もしかしたら足、くじいたかもしんない」
「え、足大丈夫か?」
「ああ。……ちょっと痛い程度だから」
零次が顔を顰めながら、俺の隣に腰を下ろす。
俺は立ち上がると、ベンチに座っている零次を食い入るように見つめた。
「え、何」
「足、見せて。血とか出てたら大変だし」
「いや、いい」
俺から目を逸らして、零次は言う。
出会った時に見た不自然な歩き方を思い出す。
嫌な予感がした。
「……見せないと靴、無理やり脱がせる」
「はぁー。わかったよ。見せればいいんだろみせれば!」
投げやりにそう言って、零次は靴と靴下を脱いだ。
零次の足を見て、俺は言葉を失った。
左右の足首に、縄で縛り付けられたかのような跡があった。それにところどころに、擦り傷や青黒い痣なんかもあって、はっきりいってかなり痛々しい。
「……なんでこんなことになってんだ」
「……一年くらい前に、色々あって」
零次が俺から目を逸らして、ばつが悪そうに言葉を返す。
「零次、まさかお前も虐待されて……」
「違う! 俺は虐待は受けてない!!」
俺の言葉を渡って、零次は大きな声で叫んだ。
「じゃあ、一体誰にやられたんだよ?」
俺の言葉を無視して、零次はジャンバーのポケットから、包帯を取り出した。
どうやらよっぽど誰にやられたか言いたくないらしい。
「これ、巻いて」
包帯を俺に渡して、零次は言う。
「うん。わかった」
渡された包帯を、俺は零次の両足に丁寧に巻いた。
「……ありがと。奈緒ちゃんたち待ってるし、もう行こうぜ」
俺に礼を言うと、靴と靴下を履きなおして零次は笑った。貼りついたような笑みだ。明らかに無理して笑っている。見てるだけで痛々しい。
「なぁ零次、どうしても言いたくないっていうなら詮索はしないけど、いつか教えろよ?」
零次の顔を覗き込んで言う。
「……いつかな」
零次は作り笑いをして、ほんの少しだけ、顔を俯かせた。
俺は零次の腕を自分の肩の上にやり、零次をゆっくりと立ち上がらせた。
「病人みたいな扱いすんな。別に平気だよ」
「嘘。無理すんな」
「ん。ありがと」
零次が頬を赤らめながら、笑って言う。俺はそんな零次を見て、少しだけ笑った。
「写真送られてきた。あいつらクレープ食ってるみたいだな」
俺の肩に腕を乗っけてる零次がスマフォを見ながら言う。
「え? 乗り物にのってんじゃないのか?」
フードコートへの道を零次の身体を支えながら歩きつつ、俺は尋ねた。
「ああ。遊園地には色々な食べ物があるから、食欲をそそられたんじゃないか? ほら」
零次がスマフォに表示されている写真を俺に見せる。
奈緒と美和は本当にクレープを食べていた。
どうやら、奈緒はショートケーキが入ったクレープを食べていて、美和はガトーショコラが入ったクレープを食べているらしい。
俺はそれを見て、零次といったスイパラを思い出した。
あの時のスイーツ、本当に美味しかったな。
「……零次」
「ん?」
「俺、スイパラ、また行きたい」
「いいけど、せっかくのバイキングなんだからこの前みたいに少ししか食べないのはやめろよ?」
眉間に皺を寄せて、零次は言う。
あの時は結局、スイーツを五つくらいしか食べなかったんだよな。零次はその倍以上食べたのに。
「うん、頑張る」
「本当か? 小食のお前が言う台詞とはとても思えないな?」
「……最近、食生活が変わったから」
「へえー? 誰のおかげで?」
にやにやと笑って、零次は言う。
こいつ、タチが悪い。誰のおかげかわかってるくせにいってやがる。
まるで俺に感謝されたいとでも言っているみたいだ。
「……零次のおかげ」
策略に乗るのが癪で、俺は小さな声で言葉を返した。
「ククッ。声小さっ!」
零次は喉を鳴らして笑った。
「うるさい」
俺は恥ずかしくなって、零次から目を逸らして、暴言を吐いた。
「はいはい」
零次は俺の照れ隠しの暴言を笑いながら流した。
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