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人形が出会ったのは、神様なんかではなかった。
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それは金を返してもらうには有効だが、倫理的には、とても良くない方法だった。
そんな方法、あまりに馬鹿げている。
俺の父さんとじいちゃんは不仲で、父さんはじいちゃんにいわれたことには、全くと言っていいほど聞く耳を持たない。多分その理由は、じいちゃんが孫の俺をとても可愛がってくれているから。
きっとじいちゃんは動画を見たら父さんを説得しないで、すぐに借金を返そうとする。
だって説得をしても、父さんがそれを受け入れる確率が低いんじゃ意味がないだろう。
零次の父親もきっとそうすると踏んで、動画を撮ろうと考えたんだ。
「……狂ってますね」
拳を握って言う。
「そうか? 俺はただ、最善の手を選んだだけだ。祖父からすれば、孫は尊いもんだ。とても可愛くて、愛らしくて、一生大事にしたいと思うもんだ。だから利用しようと思った。孫が酷い目に遭ってるのが金で解決するって言われて、金を差し出さない奴がいる訳ないからな」
じいちゃんを嘲笑うように、男は言った。
「……なんで部下とかじゃなくて、零次に撮らせたんですか」
――異常だ。
金をせびる方法も、息子に動画を撮らせることも、なにもかも馬鹿げている。
「あいつには存在価値がないからだ」
「は? なんですか、それ」
――存在価値がないだと?
開いた口がふさがらない。
実の息子なのに、なんてことをいうんだ。
「あいつは俺と俺の愛人の子なんだよ。だから存在価値がない。あいつは産まれちゃいけない人間だったんだ。だから車に閉じ込めて育てた。ゴミには車の中がお似合いだろ?」
「なっ!?」
信じられない。
零次はこんな親に育てられたのか?
こんな親に育てられたのに、いつもあんな笑ってたのか?
「俺の虐待の動画を撮ることが、そこからあいつが出られる条件だったんですか」
そう聞くのすらも、恐ろしくて仕方がなかった。
車に監禁をするだけならまだしも仕事の手伝いまでさせるなんて、本当に可笑しいにも程がある。
「ああ、そうだ。察しがいいなお前は。クソ親と違って」
「……最低ですね、本当に」
腹の底からふつふつと怒りが沸き上がってくる。こいつの腹を、顔を、手を、足を、めちゃくちゃに切り裂いてやりたい。原型がわからないくらいに。
「最低か。まぁそうかもな。でもあいつが俺にしたことは、もっと最悪だけどな」
「どういう意味ですか?」
「そのままの意味だ。あいつは俺の命令に従わなかった。動画を渡さないと殺すって言ったのに、そうしなかった。あいつは馬鹿だ。大馬鹿だ。動画を俺に渡せば幸せになれるとわかっていたのに、敢えてそうしなかった。自分の人生を、自分で棒に振った」
「……こっ、殺す? あいつは、死んだんですか……?」
俺は零次の父親の腕を摑んで、震えながら言った。
「いや、今は生きてる。殺すつもりだけどな」
「息子なのに、ですか」
零次の父親の言葉が信じられなくて、俺は思わずそう尋ねてしまった。
ありえない。
裏切ったから殺すなんて、考えが余りに馬鹿げている。まるで俺の父さんみたいだ。
父さんはそういう復讐みたいなのじゃなくて、金目当てで俺を殺そうとしたから、零次の父親よりよっぽどタチが悪いけど。
「俺はアイツを息子だと思ったことはねぇ! 血縁関係があるだけの他人だと思ってる! だから殺すんだよ! あいつは道具だ、人じゃない。俺の所有物なんだよ! それなのにお前があいつをたぶらかして、不良品にしちまった」
「俺が、たぶらかした?」
「ああ、そうだよ。あいつはお前と仲良くなったから、俺の命令より、お前が自由になることを優先したんだよ。俺が祖父に動画を渡しても、お前が絶対に自由になる保証はない、ぶっちゃけ、借金がなくなったところで、お前が自由になるかは、あのクソ親次第だ。でも動画を警察に渡せば、あのクソ親が逮捕されて、お前は完全な自由を手に入れられる。だからあいつは俺の命令を拒否して、動画を警察に渡したんだ」
つまりあいつは、自分で自分の首を絞めたのか?
俺を虐待から救うためだけに?
「馬鹿だよな、そんなことをしたら、俺に殺されるってわかっていたのに」
「……アンタに、零次は殺させません」
絶対に殺させない。零次は必ず俺が守る。
「言ってろ。お前ごときが、アイツの自殺を止められるとは思えないけどな」
零次の父親は覚めた口調で、とんでもないことを言った。
「じっ、自殺?」
「ああ。あいつはきっと、自殺しようとしている。あいつは俺に殺されるくらいなら、自殺をしようと考えるハズだ」
俺は零次の父親の言葉を聞くや否や、大急ぎで江の島に向かった。
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