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子供は消えた。人形に最後の最期まで嘘をついて
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『阿古羅零次が学校を退学した』なんて噂が学校に流れ始めたのは、零次が身投げをしてから一週間が過ぎた時のことだった。
きっと零次の父親が独断であいつを退学にさせたんだろう。俺の父親と同じように。
あいつはチャラ男として学年中に名前が知れ渡っていたから、その噂が流れ始めた途端、学年中が大騒ぎになった。
零次のセフレにされていた女子達は泣いたり喚いたりして、男子は「零次の馬鹿野郎」なんて言って苦虫を噛み潰したような顔をする奴に、壁を蹴ったり叫んだりする奴など、いろんな奴がいた。
俺はその光景を見て心が痛んで、朝礼で思いっきりものを吐いた。その後俺は副担任に誘導されて保健室に行って、そこのベッドで昼くらいまで寝た。
寝たところで気分が良くなるわけでもないくせに。
俺の気分は絶対良くならない。少なくともあいつが帰ってこない限りは。
俺だけがあいつの秘密を知っている。あいつが本当は学校を退学したどころじゃないってことを。自分が父親に殺されないために、そして、俺を守るために身投げしたんだってことを。俺と一緒に父親から逃げることより、自殺を選んだってことを。
誰かに言ってしまいたかった、本当のことを。
でも無理だった。言う気になれなかった。言う前に吐いてしまった。零次がいない事実と、零次の父親が先生に虐待や身投げのことを隠し通したという事実が毒針みたいに心に突きささって。零次を守れなかった自分にほとほと嫌気がさして気分が悪くなった。
あいつは俺を捨てた。俺があいつを守ろうとしたのなんてお構いなしに。でもそれは俺へのあいつなりの優しさで、気遣いだ。
あいつは俺を守ろうとした。
自分といたら死ぬかもしれないからって、それだけの理由であいつは俺を捨てた。俺を突き放して、独りで身投げした。
人の人生を勝手にいい方向に変えて、勝手に死んだ。遺体が見つかってないから、本当に死んだかどうかはわからないけれど。でも多分、生きてる確率はかなり低い。
仮に生きてたとしても、あんな広大の海から手がかりを探すのなんてかなり無理があるだろう。
虐待のせいで教養が抜けてても、それくらいはわかる。
「はああああああ」
聞くに耐えないため息が漏れる。
なんでこんなことになってしまったんだろう。
俺はただ幸せになりたかっただけなのに。
なんであいつは闇金の子供なんだ。
なんで俺はあんな借金取りに追われてるような奴の子供として産まれた。
なんであいつは死んだ。
なんであいつはあんな必死で俺を守ったんだよ。馬鹿じゃねえか。本当はそんなことしちゃいけない環境にいたくせに。
『俺が自分と同じように虐待を受けてたからって守ってんじゃねえよ!!』なんて言葉が頭をよぎった。
「ハッ」
自分の身勝手さを笑った。
あいつがいなかったら死んでたくせに、よくそんなことが思えるな。
俺に、怒る資格なんてない。
そうわかっていても、あいつの俺に対する言動に腹を立ててる自分がいた。
『誰が助けてって言ったんだ』『いらん世話焼いてんじゃねえ』
『赤の他人に馬鹿みたいに尽くしやがって』なんて言葉が頭をよぎった。
次に浮かんだのは、叶うはずもない願望だった。
『帰ってきて』『一緒にクレープ食べたい』『また同居したい』『飽きるまで、倒れそうになるくらいまで、零次と遊びたい』
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