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子供は消えた。人形に最後の最期まで嘘をついて
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「俺はこの部屋を見るたびにあいつが俺の奴隷なのを実感して、愉悦を味わってる」
顔を歪ませて、恍惚と零次の父親は笑う。
その恍惚とした表情が、零次の『壊れてくれたんだ』と言った時の顔にとても似ている気がした。
どんなに最悪な関係性で、犬猿の仲だとしても親子は親子ということだろうか。
「ふざけないでください。零次はあんたを楽しませるためにこの家具を買ったんじゃない。あんたにそんな気持ちを味合わせるくらいなら、俺がその家具を買い取ります!」
口から出たその言葉は、出任せも当然だった。
「へえ、いくらで? 十万以上なら考えてやらんでもない」
「それは……」
言葉に詰まる。
そんな大金、払えるわけがない。
俺のために寝る間も惜しんで働いてる母さんに家具を買ってくれなんて言えるわけがない。
それでもこいつに愉悦を味合わせるのだけは、絶対に嫌だ。
こいつに愉悦を味合わせるくらいなら、いっそのこと家具を燃やした方がよっぽどマシだ。
「はあ。この話はもう終わりだ。お前を家に連れてきたのは、これを見せるためじゃないからな」
そうだった。
しまった。危うくあいつの気持ちを知るっていう、当初の目的を忘れるところだった。
零次の父親が手前の部屋を出て、奥の部屋のドアを開けて、中に入っていく。俺は何も言わず、後をついていった。
そこは、子供部屋だった。
零次の部屋か?
ドアの横に勉強机があって、壁際に小さなベッドが置かれていて、ベッドの上に抱き枕用の猫のぬいぐるみが置いてある。
ぬいぐるみは白くて、俺が零次からもらったやつに似ている気がした。
零次はぬいぐるみを通して、自分に言い聞かせていたんだろうか。自分の意志を殺したらダメなんだってことを。
「ここだ」
勉強机の前で足を止めると、零次の父親はジャケットのポケットからキーケスを取りだした。
父親のそばに行って、机を観察する。
見たところ、なんの変哲もないただの勉強机だ。机の上には本とパソコンが置いてあって、勉強机の下にある引き出しは三段になっていて、二段目に鍵がついている。
零次の父親がキーケースの中にある小さい鍵を使って引き出しを開けると、そこにはUSBメモリがあった。
「USB?」
「ああ」
零次の父親がUSBメモリを手に取って、パソコンに差し込む。
零次の父親がパソコンを起動してUSBメモリにあったファイルを開くと、画面に一本の動画が表示される。
動画の右上に、日付が表示されている。
二千十九年、四月一日? 三年前だ。
零次が監禁されてた時期とちょうど一致する。
――まさか。
嫌な予感がした。
俺は慌てて画面をクリックして、動画を再生した。
暗いとこで撮影されたのか、画面は基本的に薄暗かった。
オレンジ色の丸い照明が、周りをぼんやりと明るく照らしている。
場所はおそらく車の中だ。
車の天井にカメラを設置して撮影したのか、映像は基本的に上からものを見下ろしているような感じになっていた。
照明は後部座席の右側の席に置かれていた。
「えっ、零次……?」
後部座席の左側の席に、白髪の十三歳くらいの男の子が映っていた。
男の子は下を向いていて、顔が見えなかった。
でも零次の父親がこの動画を俺に見せてきたことから察するに、この男の子は間違いなく零次だ。
「ご名答。これはあいつが監禁された時の映像だ」
言葉を失う。
――ああ、やっぱりか。
撮影日が三年前で、映っていたのが車の中だった時点で、そんな気はしていた。
「あんたはあいつを監視してたんですか」
「ああ。あいつが自害したら、すぐに気付けるようにな」
俺は何も言わず、唇を噛んだ。
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