アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
人形はただの我儘な子供と一緒に生きることにした。
-
「海里? 海里さん、海里さん!!」
「え?」
「大丈夫ですか? 顔、真っ青ですよ? もしかして、雷が苦手なんじゃ」
「そっ、そんなわけないじゃないですか」
食い気味に否定する。
また、雷が鳴った。
今度は距離が遠かったのか、比較的小さな音だった。それでも冷や汗が頬を伝い、手足がガタガタと震える。
怖い。
父さんが俺をいじめる光景が、頭によぎった。
「上がってください。テレビとか見てたら、きっと気も紛れると思うので」
こんな状態で家に帰るのは無理だし、お言葉に甘えて上がらせてもらおう。
「……すみません、お邪魔します」
そう言うと、俺は靴を脱いで、幸さんの家のすのこに足を降ろした。
幸さんは俺の足を一瞥してから、腰を曲げて、靴を脱いだ。
幸さんの義足が俺の目に入る。
「幸さん、その脚は……」
「何年か前に自殺未遂をしたことがあって、その時に失いました。……海里さんは、優しいですね」
「え?」
「気づいていたんですよね? 僕の脚が悪いことに。でも、あえて今まで聞かなかった。そして今も、僕が脚を自分から海里さんに見せたから、質問をした。違いますか?」
「……俺の友達にも足を怪我してる人がいて、その人は、なかなか俺に怪我をしてる理由を教えてくれなかったので」
「それで頃合いを見計らってたんですね。ついでなので、この目のことも、説明しますね」
そう言って、幸さんは自分の右目を指さす。
「一見オッドアイに見えるでしょうけど、これ、義眼なんです。わざわざ左右で色を変えたのは……そうですね、父親と同じ茶色い目が嫌いだったから、ですかね」
父親と聞いて、つい零次のことが頭を過った。
足のことといい、幸さんと話すたびに零次のことがちらつく。
本当にダメだな。
今は幸さんといるのにこんなに零次のことばかり考えていたら、零次にも幸さんに失礼だ。
「テレビ、見ますよね。こっちです」
そう言って、幸さんは俺をテレビがある部屋に案内する。
「あの、幸さん、親御さんは?」
幸さんの後ろを歩きながら、俺は首を傾げる。
「寝室で寝てます。挨拶は明日にでもしてください」
「……テレビつけたら、起こしちゃいませんか?」
「大丈夫ですよ、二人とも睡眠そんなに浅い方じゃないので」
息子の幸さんがそう言うなら、本当にそうなのだろう。
幸さんが俺を案内したのは、リビングキッチンだった。
窓の隣にある低くて白い棚の上にテレビが置いてあって。その前にガラス製のテーブルがあり、その後ろに白いソファが置いてある。
キッチンは部屋の端の方にあり、それはちょうど、テレビと向かい合わせになる位置にあった。
幸さんがソファの上に無造作に置いてあったリモコンをとって、テレビをつける。
テレビでは歌番組がやっていて、アーテイストの声が、雷の音をいい感じに紛らわしてくれた。
「お茶入れますね。ソファにでも座っててください」
リビングの前にあるキッチンに目を向けて、幸さんは言う。
「はい」
俺が頷くと、幸さんは軽々とした様子でお茶を用意してくれた。
本当に片目が見えてないのか疑うほど、不自然な様子がない。
ソファに腰を下ろして、ズボンのポケットからスマフォを取り出す。
ラインを起動すると、母さんから五件ほどの連絡が来ていた。
『何時に帰ってくるの?』『雷大丈夫?』『迎えに行こうか?』
なんていう俺の心配をしたメッセージと、女の子が泣いた顔のスタンプが一件と、不在着信がある。
しまった。
雷に狼狽え過ぎてて、全然気づいてなかった。
なんて言えばいいんだろう。
今日会った人の家に泊まるなんて言ったら、絶対に迎えに来るって言われる気がする。そうなったら俺は母さんに幸さんの家に泊まろうとしたわけを、一体どう説明したらいいんだ?
ここは奈緒の家に泊まるとでも嘘をついておくべきか?
少し考えてから、俺は本当に母さんに『奈緒の家に泊まる』と連絡を入れた。
「どうぞ」
トレイを持った幸さんが俺の隣に来て、テーブルの上に、そっとトレイを置く。
トレイにはお茶が入ったコップが二つと、菓子が入ったお皿が置いてあった。
「ありがとうございます」
俺は自分の身体に近い方に置いてあるコップを手に取り、お茶を飲んだ。
「うわっ!」
テレビの音をかき消すくらいの大音量で雷が鳴った。
思わずお茶をこぼしそうになり、俺は慌ててコップをテーブルに置いた。
手足を震わせながらその場に縮こまる俺の背中を、幸さんが撫でる。
「急に触ってすみません。こうしたら少しは楽になるかと思って」
「……ありがとうございます」
軽く頭を下げる。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
64 / 103