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人形はただの我儘な子供と一緒に生きることにした。
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「勉強はどこですんだ?」
「何処だろうな。この家に俺の部屋ないし、図書館とか?」
「え、零次の部屋は、昨日俺が寝たとこじゃないのか?」
「あそこは俺を引き取ってくれたおじさんの部屋。俺の部屋はねえの。そもそも俺この足だし、階段登ってあの部屋に行くのすらきついから。まあ別に、登れないわけじゃないけどな」
あそこが零次の部屋ではなかったのか。
多分俺を寝室に案内しなかったのは、天気が荒れたせいで、俺が零次の義親達の家に急遽泊まることになったからだろうな。
「零次あのさ……俺と一緒に、じいちゃんの家行く?」
「え?」
「俺大学、千葉にあるじいちゃんの家から行こうとしてて、そこならほら、じいちゃん達も高齢だから階段とかもあんまないし、零次が生活するのにも適してるかと思ったんだけど……」
「え、いいのか? 俺、今そんな金ないから、居候になりそうなんだけど」
「いいと思うよ。零次が家事の手伝いしてくれるなら。じいちゃん達まだ歩くのに支障はないみたいだけど、風呂掃除とか洗濯物干すのとかは少しきついみたいだから、それを零次が手伝うなら。あ、もちろん、俺も暇な時は家事手伝うけど」
「海里のじいちゃんの他には誰がいるんだ?」
「ばあちゃんと、母さん」
「え、俺、邪魔じゃない? 瀬戸家にお邪魔して平気?」
肩を縮こませて、不安げに零次は言う。
「うん、大丈夫。万が一の時は俺がじいちゃん達説得するから」
「海里はそこまでして俺と暮らしたいんだ?」
零次がニヤニヤと歯を出して笑う。
変わり身早! さっきの不安げな様子は一体何処に行ったんだ?
「悪いかよ」
「んーん、悪くない。むしろ最高。また海里とルームシェアできるとか、最高でしかない!」
俺を抱きしめて、零次は嬉しそうに顔を赤らめる。
「それなら早く零次の義親に事情説明して、同居の準備しないとだな」
俺は笑って、零次の雪のように白い髪をふわふわと撫でた。
「千葉に行く前に、美和ちゃん達にも会いに行かなきゃだな。あの二人会ったら、俺だって気付くかなあ?」
頭を掻きながら零次は言う。
「いやでも気付くよ。俺が零次以外の友達を、あいつらに紹介する理由ないから」
「それは確かに! 美和ちゃん達に会うの、楽しみだなあ」
そう言うと、零次は口角をあげて、心の底から楽しみだとでもいわんばかりに、嬉しそうに笑った。
「多分会って早々に怒られると思うけどな?」
「ええー、怖! 海里俺のこと守ってー」
「いや多分俺も怒られるよ。二人と喧嘩別れしちゃったから」
そう言って、俺は零次の真似をするみたいに、口角を上げた。
――俺を救ってくれた嘘つきな神様は、本当は神様なんかじゃなくて、ただの父親の操り人形だった。それでも俺は、こいつと生きていく。俺はこいつが明日も明後日もその次の日も俺と一緒に生きてくれるなら、それだけでいい。
(了)
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