アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
1
-
真紅の狼煙
青年少女達の青春は、その多くが箱庭の如き高校が舞台で、入学に始まり、卒業に終わる。
(…と表せば聞こえは良いが、要するに猫の額ほど小さな世界を全てとして、生きていかなければならない、めっちゃくちゃ退屈な時期っつーわけ。)
八月下旬。二学期最初の日。夏休みボケのとれない生徒達をせせら笑うかの如く、高校一年である牧斗真は、七時過ぎ。一番乗りで高校に到着した。
牧は帰宅部で、特に朝練なども科されていない。ではどうして早く来たか、というと…愛犬(小型)のジローが朝五時半という驚異的な早朝に牧に前のめりの状態でのっしと乗っかり、『さあ散歩に行こうぞ、御主人!!』とピンクの愛らしい舌をちろりと覗かせ、はっはっと忙しない息をしつつ、一丁前に主張しだしたからだ。散歩後、そのままの流れで、朝食と身支度を済ませ、高校に来てしまった。
ただし、早起きは三文の徳と昔の人はよく言ったものだ。散歩中に綺麗な朝焼けが見えた。母親がお腹すくでしょ、と大好きなタコさんウィンナーを倍にしてくれた。
いいこと三つ目は…、牧が下駄箱に足を踏み入れ、靴をなおそうとした時に起きた。
(…ぁ。)
牧の下駄箱に、目が覚めるような真っ赤なバラが一輪、引っかけられていた。牧は恐る恐る手を伸ばして、バラに触れてみる。花弁は、ふにゃりと柔らかく、人の肌の如く、今にも脆く崩れそうだった。慌てて手を引っ込める。
(…何でこんなところにこんなものが。)
牧はそう思いながらも、バラから目を背けられない。手の中で、真っ赤な花弁がくるくる回る…。
バラを手にしたまま、牧は階段を上る。誰が何のためにかはわからないが、自分の下駄箱に飾られていたものだ。自分の好きにして何が悪い。
階段を上り切った先の踊り場。壁に立てかけられてあるのは、姿見だ。大きな鏡は、そこを通りがかった牧の姿を鮮やかに映し出す。
人一倍小さな背。丸々とした体躯。やや頬がぽっちゃりした顔立ち。小学生の頃から、この丸顔をからかわれて、『お坊ちゃん』と何度も馬鹿にされた。眉だって太いし、目も魚みたいにぎょろぎょろしていて、お世辞にも“イケメン”の部類には程遠い。
姿見と向き合った牧は、知らず知らずの内にバラの棘付き茎を持つ手に力を込めた。丸っこい片拳がぶるぶると震えだす。
「…何だよ。」
舌打ちを一つする。どうせ、まだ誰も登校していない。聞いている奴は一人もいない。
「文句あるんなら、何か言えよ。」
鏡の中の自分に精一杯凄んでみるものの、瓜二つの顔はどこか迫力に欠けた。
「…つまんねェ。」
一言吐き捨て、ぷいと鏡に背を向ける。いるはずのない、後方の自分の目線が気になって、牧はまるでバラを守るかの如く背を丸めて、足早にその場を去っていく…。
_
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
1 / 8