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新山瑠璃は、牧にとって高嶺の花だ。
絵画の美女の如く、すらっとした長身。腰より少し短い亜麻色の長髪。真顔だと少し迫力があるけれど、笑うと蕾が綻び花開くように美しい、牧の憧れの女性。
図書室で、落とした本を拾ってくれた。たったそれだけの出会いだった。でも、女子どころか男子まで嘲り笑われるのが常の自分としては、女神が慈悲を与えてくれたように思えた。
付き合いたいとか、友達から始めたいとは思えない。高すぎて遠すぎて、きっと自分には一生手が届きそうにないからだ。
隣を歩きたいとか、話したいという欲求もない。自分が隣を歩いたら、新山と釣り合わない現実に直面するだけだと知っている。
だからせめて、と牧は遠くから新山を眺めつつ考えていた。新山先輩を守る役目に徹しよう。新山先輩に不埒な下心を持って近づく奴は、俺が身を挺して倒してやろう。
だから、新山瑠璃の下駄箱に飾られたバラを見て、チャンスが回ってきたんだと確信した。始まりは単に寝ぼけていたからだった。本来一年の方に行くべきだった牧は、まだ眠気がうまく抜けず、奥にある二年の下駄箱に行ってしまったのだ。そこで、間違いに気づいたのだが…そこで、真っ赤なバラを見つけた。
牧はうっかり思い込んだ。これは誰か、新山先輩に気持ちを寄せる人物からのものに違いない。そんな輩は排除してやらねば、新山先輩を守ってやらなければ。そう思って、下駄箱の付近を散々探し回って無人なのを確認してから、真っ赤なバラに手を伸ばした。
バラは牧のささやかな勲章だった。好きな女を守った、名誉ある男の証明になる…はずだったのに。
よくわからないゲームのためにばらまかれた、どうでもいいダーツの矢の代わりでしかなかった。
新山瑠璃がバラを発見したら、きっと花は彼女のものになったのだ。彼女はあの美しい笑顔で、『素敵ね』と顔を輝かせて、赤いバラを熱心に見つめていただろうに。
…鬼が言う通り、自分は好きな人の物を横取りした最低な盗人だ。
俯いて、牧はわんわん泣いた。大泣きして、疲れて鉄パイプに括りつけられたまま眠ってしまった。
「…神経図太いな、この子。」
誘拐されてその先で爆睡って、と呆れている仲間を横目に、彼は顔から鬼の面を取り去る。
「そんだけ、純粋なんだろ。」
肩まで切り揃えられた黒髪。シュッとした横顔。野卑な相貌。やや釣り上がり気味の瞳は、キリッとしている。雄々しく、洗練された美しさ。彼を見たウサギ面の女子が明るい声を発した。
「やっぱアンタ、顔だけはイケてんね。…黒田。」
黒田…元生徒会長は、つまらなそうにフンと鼻を鳴らしただけだった。
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