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=Ring1= 002.
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バシャンッ
床に水が叩きつけられる音と、
「ごめんなさ、ごめ、……っごめんなさいっ」
必死に謝る声。
「やだぁー、床が汚れちゃったじゃない」
「誰かその汚い奴隷をつまみ出せよ!」
嘲り罵る声と、
「……ッてめェ…ほんっとに役立たずだな!これ以上俺の顔に泥を塗るんじゃねェよ!!」
ドガッ、と肉に当たる衝撃音。
突然騒ぎ出した連中から離れた席に座った僕らは、片付けようとしていた書類を机の上に放り出したままそちらに目を向けた。
途端に怯えて縮こまった藍(ラン)の背を右手でするすると優しく撫でる。
やっと泣き止んだのに、藍は再び泣きそうに悲壮な顔をしていた。
騒ぎの元は静まるどころか、さっきに輪をかけてうるさくなってきたようだ。
藍の背を撫でながら、僕は冷めた目でことの成り行きを見ていた。
「おら、飲めよ!てめェが落とした水だろ!?」
「そうよぉ、ちゃーんと舐めて綺麗にしなさいよぉ?」
心底汚物を見るような目をした長身の男と、それの腕にしがみつく金髪ぐるぐるカールの女。
その足元では、ガリガリに痩せ細った少年が床に這いつくばって許しを乞う。
「お許しください…お許しください…!」
「だからその床の汚ェ水を舐めろって言ってんだよ!!」
「汚いアンタにはお似合いよぉ」
既に婚約者らしき女がいるところを見ると、有名な貴族のご子息なんだろう。
しかし柄にもなくえんじ色の髪を振り乱し、怒りをあらわに怒鳴り散らす様の品格のないことといったらなかった。
反対に、金髪をくるりと巻いた女は間延びした話し方をしてどこか落ち着きを保っていた。
愛する人の隣にさえいられれば他はどうでもいいということだろうか。
僕がぼんやりと彼らの痴態を眺めていると、やがて奴隷の少年はぐすぐすと泣きながら床の汚水を舐めはじめた。
まずそうだな、なんて思っていたら、金髪ぐるぐるカールの女が「やっだぁ〜まっずそぉ〜」と楽しそうにいったのでよく見たらただの水じゃないか、別にまずそうでもないなと思い直した。
「ぅ………っえぐ……ずッ、ぐス」
悲哀漂う見世物(ショー)が始まった。
観客となるクラスメイト達は楽しそうに囃し立ててはいるが、僕と藍を含む一部の貴族達はまったく楽しんでなどいなかった。
仕掛けた本人である長身の男は嫌悪感もあらわに奴隷を見下ろしているし、教室の反対側の隅では真面目そうな男が一人くだらないとばかりに一連の出来事を見つめていた。
かく言う僕もただぼんやり見てただけだし、藍に至っては見てもいない。机に突っ伏して肩を震わせているだけだ。僕が背中を撫でてあげるけれど。
「時雨(しぐれ)!お前の奴隷、なかなかいいなあ!」
気味の悪い緑色に毛先を染めた男が、時雨と呼ばれる彼に声をかけた。
自分の席の周りに半裸の女奴隷を何人も侍らせ撫で回してニヤニヤしている。
俺今絶好調です、って顔に書いてあった。
始終を顔をしかめたままで時雨は声のかかった方を向く。
「……なかなかいいだと?一体どこを見て言っている」
どこまでも不機嫌な彼に対し、緑染めの髪の男はゲラゲラと豪快に笑う。
「いっやぁね!よく見ればなかなか可愛い顔してるみたいだし、命令に反抗を見せながらも従順だし? 俺そういう奴好きなんだよねぇ!」
「お前は自分の奴隷を持ち込みすぎだろうが…これ以上持ってどうする」
「だってこいつら、従順すぎて飽きちゃうんだよ」
一人の女の乳房にグルリと通されたリングを男が無理矢理引っ張ると、女が小さく悲鳴を上げた。押し殺したような声には痛みがはっきりと現れていた。
「しかも痛みにも快楽にも鈍い」
ビクビクと震える女を一瞥し、また水をすする奴隷を厭らしく見つめる。
「今の一撃で「痛みに鈍い」などというのは贅沢にしか見えないな」
まったくその通りなことを呆れ顔でつぶやいた時雨に内心同意して、僕は今尚震えが止まらない藍の背を撫で続けた。
手が疲れてきて不意に悪戯心が働き、藍が弱いと知っている背筋に沿ってツツツ…と人差し指を這わせる。
ビクン、と藍の肩が揺れた。
「…………しょ…ぅ……?」
ふさぎこんでいた腕の間からうっすらと目を覗かせて、ピンク色の瞳が僕を捉える。
僕はゆるく微笑む。
「…まだ、見ない方がいい」
その一言でさっきの奴隷のことを思い出した藍は、慌てて腕の間に顔をうずめた。
藍の無抵抗を確認すると、僕は再びゆっくりと藍の背筋を指でなぞる。
ピク、ピクッと跳ねる肩を微笑みながら見つめていたら、目の前で行われるソレを一瞬でも忘れることができた。
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