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ハイスペックな彼氏③
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「遅いぞ、葵」
玄関の壁に寄り掛かり、その人物は軽く俺を睨み付けてくる。
「ご、ごめんなさい。記録が終わらなくて……」
「本当に記録か?看護師とナースステーションでイチャイチャしてたんじゃねぇの?」
「え?見、見てたの?」
「見てた。凄く楽しそうにしてたから……」
今度は、下唇を尖らせて子供みたいに拗ねた顔をしている。
「別に楽しそうにしてた訳じゃ……」
「いいや、楽しそうだった」
「そんなことない!」
「別にいいよ。葵は元々ノンケなんだから。俺なんかより、可愛い看護師のが好きだよね」
クルリと俺に背を向けてリビングへと向かおうとしたその腕を、俺は咄嗟に両手で掴んだ。
「お願い、怒らないで成宮先生!別に、あの看護師さんのこと、何とも思ってないよ」
「ふーん……」
まだ拗ねたような素振りを見せるから、腰に腕を回して正面から抱きついた。
「大丈夫です。俺は成宮先生だけの物だから」
ギュッと抱き締めて、その首筋に顔を埋める。お風呂に入ったのだろうか……成宮先生からは、シャンプーのいい香りがした。
そう。俺と成宮先生は一緒に住んでいる。
そして、俺が研修医時代からの恋人だ。
正直言って、何でこんなハイスペック男が、自分の彼氏なのかなんて、未だに理解できていない。いや、きっと説明されても納得できるはずなんてないだろう。
俺は、別に取り柄がある訳でもないし、代々続く医者の子供という訳でもない、The普通系男子。よく「可愛い」なんて言われるけど、格段モテることもないし、付き合った人の数なんて片手で十分足りてしまう。
普通過ぎて、つまらない男なのだ。
見た目だって、真ん丸な目に、フワフワのくせっ毛。今年で25歳にもなるのに、いつまでたっても子供みたいな外見をしている。身長も高くはないし、筋肉質でもない。俺を見た人は、「可愛い」ってまるで小動物を見たかのように目を輝かせるのだ。
それでも、実習先の病院で見かけた成宮先生に憧れて、彼を追って小児科医になった。優しくて、真面目な働きぶりに、当時の俺は強い感銘を受けたから。
成宮先生みたいに、誰からも好かれる医師になりたい……そう思って、辛い勉強や実習も乗り越えてきたんだ。
「葵は俺の物だって?」
「はい。俺は先生だけの物です」
「フッ」
「え?」
拗ねているのかと思って、一生懸命ご機嫌を取ろうとしていた俺の耳元で乾いた笑いが聞こえてきたから、思わず顔を上げる。
そこには、不敵な笑みを浮かべた成宮千歳がいた。
「葵が俺の物なんて、当たり前だろうが?」
「へ?」
「当たり前過ぎて、笑っちまう」
「…………」
あぁ、この男が一瞬でも可哀想に思えた自分が馬鹿だったんだ……俺は酷く後悔してしまう。
「ほら、飯食うぞ。お前がノロマ過ぎて、冷めちまうところだった」
手をギュッと繋がれて、俺はリビングへと連れて行かれる。リビングに置かれたテーブルの上には、俺の大好きなハンバーグが美味しそうな湯気をたてていた。
「わぁ!美味しそう……ハンバーグだ」
思わず目をキラキラ輝かせれば、成宮先生がクスクス笑い出す。
「葵は本当に子供だなぁ」
無邪気な笑顔で頭を優しく撫でられれば、ずっと一緒にいる俺でさえ、ドキドキしてしまった。久しぶりに見た、成宮先生の笑顔。
やっぱり、成宮先生はかっこいい。
「今日、咲ちゃんの採血頑張ってたからな」
「え……?」
「お前にしたら頑張ったんじゃん?まぁ、失敗したけどな」
誉められているのか、けなされているのなんて分からなかったけど、こんなのはいつものことだ。これをいちいち気にしていたら、この人となんて一緒にいられるはずなんかない。
「いただきます!」
俺は両手を合わせてから、大きなハンバーグに食らいつく。
「でっけぇ口だなぁ」
そんな俺を見た成宮先生が、声を出して笑っていた。
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