アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
【番外編】僕と貴方の願い事①
-
俺達、医療従事者に盆暮れ正月なんてものはない。
逆に、病院がやっていない時ほど緊急外来が忙しくなるような気がする。ほら、良く年末年始って救急車を見かけたりしない?あんな感じ。
そして、独身の若手がそういった時に日勤や当直に駆り出されて、お偉い先生方はゆっくりと冬休みを過ごされる……なんとなく、そういう昔ながらのルールが根強く存在している。
俺なんて、独身で子供もいない、別に実家に帰省する必要もない。年末年始駆り出されるのはわかりきっていたから、年越しの当直を押し付けられても特に何も思わなかった。
逆に、ずっと成宮先生がこれを一人でやってきたのか……そう思うと、少しは役にたてたことが嬉しかった。
「2023年まで、10、9,8,7……」
テレビで行われている年越しカウントダウンが、酷く遠い世界の事のように感じられる。
俺は、成宮先生にもらったカップ蕎麦をすすりながら、それを呆然と眺めた。
きっと、世界中のカップルが、0時ピッタリにキスをしたり、姫はじめとか……そんな甘い時を過ごしているはずだ。
「いいなぁ。俺も先生と、0時ピッタリにキスがしたかったな」
そのことだけは、少しだけイジケテみたくもなる。
だって、成宮先生とお正月を迎えるのは、これが初めてだから。
『10、9、8、7……3、2、1、0……』
除夜の鐘が鳴り響く中、俺達は静かにカウントダウンをして、新年を迎えた瞬間に、
『あけましておめでとう」』
って照れくさそうに見つめ合う。
それから、どちらともなく目を閉じて、優しいキスをするんだ。
そのキスがどんどん熱を帯びて行って、自然と体がお互いを求め出す。
『新年になって、初めて葵を抱きたい』
『千歳さん……』
『今年も、嫌だって泣く位……お前を抱くからな』
『ちょっと、ち、千歳さん……あ、あ!そんな、いきなり過ぎる……あぁ!』
それから、まるで絡み合うかのように、朝までお互いの体を貪って……。
ピコン。
その瞬間、俺のスマホがメールの着信を知らせた。
『仕事ちゃんとやってるか?俺は明日も仕事だから寝るぞ』
それは、つい先程まで一緒に仕事をしていた成宮先生からだった。
成宮先生だって、年越しの当直を免れたって、年末年始はほぼ毎日仕事だ。そう思えば、今俺がしていた妄想なんて、当分夢のまた夢だなんてわかりきっている。
このあまりにも、クールな恋人のメールに、熱く火照った体が急激に冷えてくのを感じた。
「あけましておめでとうございます、も言えないんかい?」
あくまでもマイペースな恋人に、俺は小さく溜息を付いた。
「お疲れ様です。ゆっくり休んでくださいね」
「おう。頑張ってな」
それを最後に先生からのメールは途絶えた。
「カウントダウンのキス……やっぱりしたかったな……」
机に突っ伏して、遥か遠くから聞こえてくる救急車の音に、もう一度大きな溜息を付いた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
16 / 67