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意地悪なのに優しい人⑪
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それからの俺は、寝る暇さえも惜しんで、沙羅ちゃんの病気に関する論文や、文献を読み漁った。
なんとか沙羅ちゃんを元気にしてあげたい。だって俺は、沙羅ちゃんの主治医だから。
「駄目だ、どうにもなんない」
睡眠時間を削り、休憩もろくに取らずに調べ事に没頭して俺には、既に限界がきていた。
フラフラと眩暈はするし、頭がボーっとして思考がまとまらない。寝不足のせいか、目の下にはクマができて、顔は蒼白かった。
それでも、毎日沙羅ちゃんを見舞いに来ては、優しく話かける母親を見ると、俺の胸はギュッと締め付けられる。なんとかしてあげたい……そして、また振り出へしと戻ってしまうのだ。
「お願い生きて……」
俺は祈ることしかできなかった。
「お疲れ様です、水瀬先生」
「あ、お疲れ様です」
「毎日夜遅くまで大変ですね?沙羅ちゃんのことですか?」
「はい、そうです」
夜勤の看護師さんに声を掛けられ、俺は思わず顔を上げた。
時計を見ればもう夜の11時だ。
「そろそろ帰ろうかな」
重い体に鞭を打って立ち上がろうとした俺に、看護師さんが話しかけてくる。
「成宮先生も、夜遅くまで沙羅ちゃんの病室にいますよね?」
「え?そうんですか?」
「はい。色々勉強されているみたいだし、この前は国際電話かな?英語でどこかのお医者さんとお話してましたし」
「…………」
俺はその言葉に思わず目を見開いた。
成宮先生が……俺、そんなの全然知らなかった。
「成宮先生も、何とか沙羅ちゃんを助けてあげたいって、必死に頑張ってくれてますよね。そんな姿が、本当にかっこいいです!」
頬を赤らめながら照れくさそうに笑う看護師さんは、きっと成宮先生のことが好きなのかな……って思う。
「今日もまだ、心臓外科の病棟にいるみたいですよ。沙羅ちゃん、心臓も悪いから」
「そうなんですね……」
「水瀬先生も、できるだけ早く帰って休んでくださいね」
「はい、ありがとうございます」
俺はフラフラと廊下を歩く。
廊下の冷たい風が火照った頬を冷やしてくれて凄く気持ちいい。遠くでなっているナースコールが、酷く遠い世界に感じた。
「成宮先生、沙羅ちゃんのこと、見捨ててたわけじゃなかったんだ」
ポツリ呟く。
「なのに、酷い事言っちゃったな……」
鼻の奥がツンとなって、目頭が熱くなる。
「ごめんなさい」
でも、意地っ張りな俺は、素直に先生に謝ることなんて……できそうになかった。
医局に戻っても部屋の中は薄暗くて、成宮先生の荷物は置きっぱなしだ。まだ、成宮先生は帰っていない。
きっと、紗羅ちゃんの事を色々調べていてくれているんだろう。
俺は大きな溜息をつきながら、ソファーに座る。
「必死な素振りなんか全然見せなかったくせに、かっこ良過ぎでしょ……」
その時、俺の心臓がまたトクントクンと甘く高鳴り出す。
「俺の為でもあるのかな……」
そう考えると、胸がキュッと締め付けられた。
「先生、ごめんななさい」
ソファーに横になると強い睡魔に襲われた。
「先生……俺、やっぱり病気かもしれません。だって、胸が、胸がこんなにも苦しい……」
そのまま、俺はそっと目を閉じた。
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