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ごめんね、大好き⑥
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ピンポーン。
真夜中にインターホンが静かな室内に響き渡る。
俺は少しだけ罪悪感を感じながらも、そっと外から声をかけた。
「智彰(ちあき)、葵だよ。開けてよ」
「え?葵さん?」
「うん、葵だよ。ごめんね、黙ってきて」
「ちょっと待ってて」
インターフォンからは聞きなれた声が聞こえてくる。
「葵さん、上がっておいで」
優しい声と共に、オートロックのマンションの入口が開いた。
「ごめんね、こんな真夜中に」
部屋に入るなり、俺は深々と頭を下げる。俺は両手にいっぱいの荷物を、「よいしょ」と床に下ろした。
「別にいいけど、どうしたの?」
「ん~、別に。しばらく智彰のアパートに泊まらせてもらおうと思って……」
「え?」
あまりにも突拍子もない俺の発言に、智彰が思わず目を見開いた。
明らかに戸惑っているのが、見て取れる。
「泊まる場所って、葵さん、彼氏と同棲してるんだろう?」
「そうだけど……」
痛い所を突かれた俺は、唇を尖らせたまま俯いた。
だって、今の俺には帰る場所なんてないんだから。
「その彼氏から逃げたいんだよ。もう、あの家には戻らない」
「逃げたいって……なんかあったのか?」
「あった……けど言いたくない。ただしばらく、仕事は休む予定だし、彼氏とは……」
目頭が熱くなってきたから、唇をギュッと噛み締めた。
「彼氏とは?」
小刻みに震える背中を、智彰が優しく摩ってくれる。
「彼氏とは別れたから」
「はぁっ?」
俺と成宮先生が付き合って、大分時間がたったけど、喧嘩したのなんか智彰は見たこと無いのかもしれない。ましてや別れ話なんて。
「良くわからないけど、訳ありなんでしょ?じゃあさ、優しい優しい智彰君が、可愛い葵さんを慰めてあげますよ」
そう言いながら、智彰は俺を抱き締めてくれる。
「でもさ、予想もしなかった、突然の可愛らしい迷い犬の訪問は……凄く嬉しいよ。ゆっくりしていって」
そう言いながら微笑む智彰は本当にイケメンで……男の俺でもドキドキしてしまった。
智彰は俺より一つ年下で、同じ大学の出身だ。今は研修医として頑張っているけど、行く行くは緩和ケア病棟で働きたいって言っていた。
人生最後の瞬間を過ごす人達の支えになりたいなんて、本当に優しい智彰らしいなって思う。
しかも、智彰はイケメンと言うことで、大学でも病院でも有名人だった。
色素の薄い髪は短く整えられ、フワッといつもシャンプーのいい香りがする。整った顔立ちに、モデルのようなスタイル。そして、優しい物腰。彼に会う人全員を、幸せな気持ちにさせてくれる……そんな不思議な存在。
そして、それは、成宮先生にとても良く似ていた。
「兄貴、葵さんが出て行ったから、きっと今頃焦ってんじゃん無い?」
そう、似ているも何も『成宮智彰』は、『成宮千歳』の実の弟だ。
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