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8 高橋side
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高橋side
「ただいまー…」
先生と話した後、そう言えば頭痛で来たという嘘を吐いて保健室に来たんですと伝えたら、今日ぐらい早退してもいいんじゃないかと早退届けをもらってきた
正直サボる気満々だったから教室では少し演技をしてきたけど…バレてない、はず
そう思いながら静かな寮へと帰って来た
中に入れば俺一人しかいないんじゃないかと思うほどしんとしていて、そのまま殺風景な共同ルームから自分の部屋へと向かう
今日坂崎と話が出来たらしたいなと着替えながらぼんやり考えていた
じゃないと俺もこれからやりにくいし、助けに来ても怖がられたら意味が無い
「うーん…でも何話せばいいんだろう」
コミュニケーションが一番難しいかもと思いながらもとりあえず坂崎の部屋をノックした
――コンコン
「坂崎? 帰ったよ」
一応帰ったことを伝えても返事はなかった。でも靴はあったから多分寝てるのか、起きてるけど返事しないのかもしれない
まあそれは、俺の自業自得なんだけど
それにこのドア、ものすごく薄いから何かしていたら物音が聞こえるはず
でも聞こえないから本当に寝てるのかもしれない
無理に起こさない方がいいか
大人しくご飯を作ろうと欠伸をしながらキッチンに向かって適当に作る
テレビもつけてニュースやらバラエティやらをぼんやり眺めながらお昼まで過ごした
坂崎が起きてお腹空いていたら食べさせようと俺と同じサンドイッチをラップに包んで冷蔵庫に入れてきた
きっと少ししか食べてないんじゃないかな
…同室なのにいつ食べていたのかすら知らなかったんだ
「…それだけ避けられてたってことなんだよね」
いじめられてたら誰だってそうなるし、むしろ避けられてるだけでいいのかって思うほど坂崎は俺達に何もしてこない
「仕返しとか、恨んだりだとか悪口とかも…なし、か」
抵抗しても無駄だってわかってるみたいだ
そうしてしまったら楽しんでもっとひどくなるんだと坂崎も考えてる、のかもしれない
「相馬達をなんとか出来たら一気に解決出来る気がするんだけどな。でも少し口出しただけですぐ殴るから誰も近寄らないし、下手すると坂崎と一緒になる…というか絶対、坂崎に鬱憤晴らすだろ。あいつらなら」
そう、それが原因というか手出しが出来なかったり口出し出来ないということだ
誰かが相馬達にそこまでしなくてもいいじゃないかと言っただけでうるせーとその人を殴り、機嫌を悪くしてその鬱憤を晴らすかのように坂崎にそれ以上の暴力を振るっているのを見たことがあった
それから誰も口出し出来なくなった。誰かが刃向かえば坂崎がボロボロになる
間接的に俺達も共犯だと言われてる気がして誰も…授業をする先生でさえ何も言えなくなってしまった
坂崎が殴られるのを見る度に死んでしまうと思って止めようとしても
誰かが言えば、腹いせに坂崎が殴られるという悪循環
…誰も今の相馬達を止めることなんて出来なかった
学校内で解決出来そうに無い状況にまでなってきていてクラスのみんなもひどく怯えながらいつも学校に来ている
「……俺だって、怖いよ」
でも、もうそんなことさせないようにしないと
相馬達にまだ殴られたことはないけどもう決めたんだ
今のままだと坂崎が本当に危ないし、このまま卒業なんて絶対嫌だ
――ガチャ
「あ」
音のする方に向けば、目をこすってる坂崎がいた。でもなんだか顔色が悪いように見える
「おはよう。お腹空いてる?」
俺の顔を見るなり強張ってなんでいるんだと睨み付けてきた
「今日サボってきた、ちょっと話もしたくて」
何とか坂崎をソファに座らせて俺も向かいに座る
前に話したのが一応全部だったんだけど多分信じてないと先生も言っていた
もう一回言った方がいいのかな、それとも先生を交えて話した方がいい…?
話がしたいと言ったのは俺なのにどうしたら坂崎に届くのかとぐるぐる考え込んでしまっていた
「……高橋」
「ん? あ、ごめん…何?」
坂崎から話しかけられるなんて初めてだ、どうしたんだろう
もしかして俺がずっと考え込んでいたから痺れを切らしたのかと焦ってしまう
「なんで、僕のこと今更助けるって言ったの」
そう聞く坂崎は心底わからないという表情をしつつもどこか悲しそうだった
「…みんな諦めてるから。授業してる先生だって見て見ぬフリ、してる。誰も相馬達に口出しする人もいないし…すれば殴られてそれ以上に坂崎に当たってる。もうそういうの、止めたいんだ。俺一人じゃ今までと同じになる。だから坂崎と石川先生に協力したいって話したんだ」
坂崎には助けるしか言ってないけど相馬達を止められたら必然的に坂崎を助けることになるから話をした
「先生にも、その話したの…?」
「うん」
下を向いてしまった坂崎にやっぱりまだ信じてないんだろうなと少し悲しくなる
前会ったときよりも随分落ち着いて話してるから、少し元気なんだとは思うけどやっぱり顔色は悪いままだ
「…らない」
「ん?」
小さく呟いた言葉を聞き逃して謝りながらもう一回聞く
「そんなの、いらない…僕は、このままでいい」
ソファに体育座りをして顔を埋める、まるでもう聞きたくないと言うように塞ぎ込んでしまった
「信じられないのはわかってる…けど俺は本気だよ。絶対、坂崎のこと助ける」
「…無理だよ、誰も止められない。掻き乱すくらいなら…このままに、してほしい」
掻き乱す、そう言われるとは思っていなかった。変に刺激すれば確かにエスカレートするかもしれない
だけどそれぐらいしないと助けられない
「…それにそんなの、自己満足でしょう?」
坂崎の冷たい言葉に俺の頭は一気に冷えた
「…簡単に助けるって言うけどクラスが始めたいじめから僕を守ることが出来る? そんなこと、出来るはずがない」
「やってみないとわかんないだろ、石川先生だっている。俺一人で全部止めるわけじゃないし、止められない。それはわかってる」
けほ、けほ、と突然坂崎が咳き込んだのを見てはっとする
近寄ろうとするとさらに縮こまってしまったからゆっくり離れた
「…部屋、戻る…っ、けほ、げほ、げほ」
「一緒に行く」
「…いい。すぐ、そこだし…来ないで」
明らかな拒絶に何も言えなくなる
ゆっくり立ち上がってふらふらと戻っていく姿に着いて行くぐらいしか出来なかった
「…それと、いくら高橋が…僕を助けたとしても、きっと変わりはしないよ」
パタンとドアが閉まった
咳き込む音が中で聞こえる
「……坂崎はこのまま変わらないって思うんだったら、本当に変わらないのかもしれない」
それはいじめられてる側が一番感じる部分
「だけど、助けたい気持ちは変わらない」
俺は坂崎に生きて欲しい
いつ死んでもいいような、あの目を…何とかしたい
このままじゃ本当に卒業する前に坂崎は死んでしまう
大袈裟かもしれない、気のせいかもしれない
だけど…もう見て見ぬフリだけは絶対にしたくなかった
「…早く、なんとかしないと」
これからどうしようか考えようと俺はソファへと戻った
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