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53 高橋side
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高橋side
ごとごとと重い音と誰かが話してる声で目が覚めた
「あ、高橋君おはよう。ただいま夕方です」
「え、すいません! いつの間に寝て…っ、けほ、げほっ」
ふと見ると幾分か共同ルームがすっきりしてるように見えた
少し大きめの物を運んでいたらしく、音はそれだったらしい
窓が開いてるけど埃っぽくて思わず咳が出た
「引っ越しの日にちが決まったんだ。あと二ヶ月ぐらいあるんだが、正直二ヶ月しかない。こっちの方を先に終わらせて俺達の家の方を手伝ってもらいたくてな」
「そうそう。さすがに一人じゃ限界でさ…ごめんね」
「いえ、いつも二人にはお世話になってるので出来ること手伝いたいです」
坂崎も頷いている。そう言えば今日は金曜日だったな、とふと思い出した
学校は行ったり行ってなかったりで完全に怠けてる自覚はある
でもこの状況で学校行くのは体力的にも無理な気がして結局は行かなくなってしまった
…それに、もう行かない気がする
坂崎も俺ももう二人に着いていくと決めたらそっちの方に頭がいっぱいで、楽しかった
「ありがとう。とりあえずここはもう大体終わったから今日はここまでにしようか」
「…すいません。寝てて」
「ううん。ずっと高橋君には頑張ってもらってたからね。休むことも大事だよ」
それでも、すいませんと謝ると明日からの掃除頑張ってもらおうかなと桜井さんは笑って許してくれた
「あ、俺風呂用意してきます」
ご飯も用意は終わってるけどきっと先に入りたいよなと思って風呂の用意をしに行こうとするとそこも最低限のものしかなくなっていて、本当に引っ越しするんだなと少し嬉しくなる
「…よし、頑張ろう」
きっと今が大変なだけで、引っ越しが終われば楽しいことが待ってるはずだから
+++
「土曜日は俺の家の手伝い、だな。物はまとめながら掃除をしてるから正直汚いんだ。悪い」
「…ううん。先生の家、久しぶり」
「そう言えば先生の家行くの初めてです」
人より本が多いだけだと家の鍵を取り出して開ける
中に入ると確かに物をまとめながらやっていたのがわかる。段ボールが置いてあってその隣にゴミ袋があった
「先生の部屋、思ったより広いですね。本多いって言ってたので狭くなってるのかと」
「ああ。もう使わないと思ったものは売ってるからな。整理は一応してた」
「……」
坂崎はある場所を見つめて動かない。その後ろ姿から覗くとどうやらベッドを見ていたようだった
「そこは祐が使っていたベッドなんだ。そのまま持って行こうと思ってな。いいだろ」
「…うん。先生、もう捨てたのかと思ってたから、びっくりした」
「捨てるわけないだろ。中学卒業したら寮も出ないといけないしな」
「…そうだね」
俺はそんな二人の会話に胸が痛んだ。坂崎はここで卒業しないまま死のうとしてたんだ
だからベッドが当たり前に残ってあったのが不思議…だったのかな
「よし、やるか。祐が持って行きたいものもついでに見ておくといい」
「うん。見ながら片付け、してみる」
頼むと先生はやりかけだった自分の部屋の続きを始めた
坂崎はさっきベッドが置いてあった部屋を始めて、俺はどっちを手伝おうかと悩む
…量的に先生だな。そう思って先生に声をかけて二人で片付けをしながら掃除を始めた
ちなみに桜井さんは自分の家を今日は一人でやっていて、明日俺達は桜井さんの家のお手伝いをすることになっている
「先生、次の場所ってここから遠いんですか?」
「いや、そんなに遠くはないが地域は変わる」
「交通機関でここに戻ってこれます?」
「ああ。ここも次行く場所も交通の便はいいところにした」
良かった。これなら西田と気軽に遊びに行けそうだ
「よし、ここは大体こんなもんか。本棚はどうするか…」
「これだけ本があると本棚も多いですね」
「…厳選するか。もう古いからどっちみち捨てようと思っていたんだ」
まだよく見てはいないけどここにある本棚はもうだいぶ古いらしい。四つぐらいあるんだけどどれも難しい本ばかり
…大人は大変だな
「高橋は実家行かなくていいのか? 持っていきたい物があるなら車出すぞ」
「いえ、持って行きたい物は全部寮にあるので特にないです」
家に帰ってもベッドがあるぐらいだし、そのベッドも父さんのお下がりだからこれから新しい場所で使うには古すぎる
せっかくなら新しいもので生活したいから、これでいい
「っ、けほ、けほ…」
「すまない、窓開けてなかったな」
段ボールで埋まってしまった足の踏み場を無理矢理広げて通る先生がいつもと違って何だか面白かった
坂崎の方もたまに段ボールのある場所を聞きに来たり、先生の物を渡しに来たりと順調そうだった
俺が様子を見に行けば先生と違って持って行くものは段ボールに入れて部屋の隅にまとめてあった
先生もこうすればいいのになと改めて坂崎の几帳面さを目の当たりにして苦笑いする
「ここ、坂崎が小学校の時のまま?」
「…うん。だから物、少ないし小さいから捨てようと思ってる」
試しに座ってみせてくれた机は確かに今の坂崎には不格好でどう見ても小さかった
「……」
「どうかした?」
「…ねえ、どうして僕たちのこと、家族だって思ったの…?」
前に俺が言ったことが気になってるのか珍しく目を合わせながらも首を傾げてる
「うーん…あんまり深くは考えてなかったよ。ただそうだったらいいな、家族になれたら四人でこれからもなんとか出来るんじゃないかって…それに、寂しくないし」
「独りじゃない? みんな…高橋も、いて、くれるの」
「四人もいるから独りじゃないよ。…家族になりたいって思うぐらいだから、もちろんいる」
俺のことを気にしてくれてるのが嬉しいけど、気付かないフリをした
「……少し、嬉しい」
「っ…俺も嬉しい」
祐が小さく笑う。それを今度は言わないでただ見つめていれば目を閉じて先生の所に行ってしまった。俺は改めて坂崎の部屋を見渡してみる
「時間が、ここで止まってるとか言われなくて良かった」
嫌でも時間は流れている、なんて言えない
坂崎がそう言わなかったのはきっと気付いたんだろう
それでも俺に言わなかったのはこれからのことを考える方が良いって思ってくれたのかな
「…考え直してくれてるのか、それとも坂崎が変わってきてるのかな。どっちにしろ、俺は嬉しいよ」
自ら死にたいって言葉がまた一つ消えたのだから
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