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先生からもらったものは袋に包まれた制服だった。見た瞬間、震えが止まらなくて何も話せなくなった
将来を考えてくれてのことなのはわかってる
でもまたあの生活になるんじゃないかと思って泣きそうなのを必死に抑えることしか出来なかった
用意してくれたその制服は、まるで行かないといけないと僕に言ってるかのようでそれさえ怖くなる
だって、何も楽しいことが想像出来ないから、わからないから
蒼太は三日行く、なら多分僕も一緒。一人じゃないからまだ良かった、一人だったらきっと行かないままだった
「……大丈夫」
自分の部屋でそう言い続けると先生がそっと僕を撫でる
そのまま寄りかかって小さく息を吐いた
もう、あの学校じゃない…でも怖い。ぐるぐるとそれの繰り返しで答えのないことをいつまでも考えていた
…僕がいていいのかな。行きたくない、な
「…怖い…っ」
ぎゅっと先生の服を握りしめる
「せんせ…」
視界がぼやけて目を閉じた。やっぱり、だめなんじゃないかな…僕が学校に行ったらクラスの雰囲気を壊しちゃうんじゃ…
「ふ、…っく…や…だよ…」
涙が溢れて、ぐちゃぐちゃな気持ち。行きたくない、でも行かなきゃいけない。こんなの初めてだ
「まずは三日。蒼太もいるし、それでもダメなら休んでもいい」
「……でも、行かなきゃ、だめなんでしょ…?」
「…押しつけてるな、俺は。ごめん」
「…っ、しけん、はうける…でも…」
「ああ。決めるのは祐だ。怒ったりもしないから、ゆっくり考えてな」
頷いて先生に抱き着く。ごめんなさいと何度も心の中で謝った
ずっと手が震えてるのもきっとバレてると思う
先生の優しさに甘えるなんて…最低な人間だ。いつも先生に大きなことをさせて僕はそれに嫌だ嫌だと言うだけで何もしない
「…っ、ごめんなさい…」
「いいんだ。ゆっくりでいい。祐は何も悪いことなんてしてないし、むしろ悪いことをされた側だ。俺達のことは俺達で考えてるから、祐は自分のことを考えろ」
「……」
「わかったな」
「…うん」
むしろ、自分中心で考えすぎて先生にわがままを言っている気がしてならない
先生はそれでもわがまま言うなとか、怒ったりもしなかった
+++
「祐君、達也おはよう。今日はどうする?」
「おはよう。蒼太はまだ寝てるのか…。何か買う物があれば行くぐらいだな。あるか?」
「俺は急ぐ物はないかな。祐君は?」
「…ううん、ない」
先生もないみたいだし、蒼太も起きてこないからという理由で今日は久しぶりにゆっくりすることにした
制服は昨日、クローゼットに段ボールのまま入れてある
…今日はそこをゆっくり考えたいな。蒼太と少し話したい
蒼太が起きるまで先生の隣にくっついて歩いて待っていた。先生はきっと気付いてるけど何も言わずテレビを見ていたりコーヒーを飲んでる
「…ふわ…おはよう、ございます」
「寝ぼけてるな蒼太。おはよう」
「っ、お、はよう」
正直、まだ蒼太とは気まずい
友達でもなく、親友でも兄弟でもない。突然家族になって…でも僕は家族は先生しか知らないから、何を話せばいいのかいまだにわからない
いつも蒼太が話くれることを頷いたり少し答えたりするぐらいで終わってしまう
蒼太はこんな僕と気まずくないのかな
「んー…漫画、読んでたら遅くなった…」
「そうか。ほどほどにな」
「ん。あれ、今日買い物は…?」
「みんな買う物ないってなしになった。蒼太はあったのか?」
「…ううん」
先生にはまだ敬語なのに…寝ぼけてるみたい
僕が少し笑うと先生が蒼太の頭をぐしゃぐしゃにする
「ほーら、起きろ」
「わ、わ、待って待って…起きる、起きるからっ」
ぐいぐいと押してもいるから慌てた声がする
少しして抜け出した蒼太は僕と目が合うとあのさ、とそのままこっちに来る
「少し、話したいんだけどいい?」
「…うん」
良かった、と笑って僕たちは蒼太の部屋へと向かう
学校の話だというのはなんとなくわかった。僕も蒼太がどう思ってるのか、聞きたかったからちょうどいい
「飲み物持ってくるからちょっと待ってて。ついでに顔洗ってくる」
「…うん」
蒼太の部屋は中学の時も思っていたけど意外と殺風景だ
サッカー部だから部活の写真だとかボールがあるものかと思っていたけど、昔も今も全くと言っていいほどない。あるのは漫画のある棚と机、ベッド…くらい
「僕も似たようなものだけど…」
でも落ち着く。思わずごろりと寝転ぶほど、心地が良かった
片付け前の桜井さんの家に似てるような気がする
「眠いの?」
「っ、びっくりした…」
突然声がして起き上がればさっきよりすっきりした顔と飲み物を二つ抱えた蒼太がすぐそばで立っていた
「俺もびっくりした、一瞬倒れてるのかと」
「…具合悪くないから大丈夫」
「そっか、良かった」
心地よくて、とはまだ言えずに蒼太もテーブルのそばに座る。飲み物は多分、あのときのリンゴジュース
「一回、学校行く前に話したくて呼んだんだ。昨日大丈夫だった?」
「………」
「話すの嫌だったら当日までは話さないようにするけど…」
「…話す。僕も、蒼太と…話、したかったから。どうしたいのか」
どうするのか。僕と蒼太がもしすれ違ったら気まずいのは続く
「わかった。無理はしないでね」
頷いて僕は蒼太の話を聞こうと顔を上げた
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