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Lesson.1
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「えっ。押しちゃうんですか?」
「生徒達とかなり喋ってしまいましたし。それで残業つけるのは怒られそうで」
「由衣濱先生って真面目ですねぇ。口コミとか紹介で入ってきてくれる方もいるし、仕事のうちじゃないですか。残業つけちゃってもいいと思いますけど」
「すみません。あ、新しいイタリアン、どうだったかまた教えてくださいね」
「はーい」
金曜日の今日は、どうしても外せない用事がある。
その用事と週末の飲み会はよく重なるため、誘いをほとんど断ってしまう。
午後九時、事務所の戸締まりをした後、多希は夜の街へと繰り出した。
数年前に上京して驚いたことの一つが、都会には何でも揃っているということだ。
ないものを探すほうが難しいのではないかと思う。
多希が生まれ育ったのは、市街の中華料理店だった。
父方の祖父の代から続く店は、近所の常連客が訪れ、小さいながらもそれなりに繁盛していた。
そして自分も両親の跡を継いでいくものだと思っていた。
しかし、多希には兄がおり、多希よりも見込みがあった。
『お兄ちゃんは心配してないからね』
勤勉で素行も真面目だった兄が高校を卒業したことで、店は自然と兄が継ぐことになった。
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