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Lesson.3
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「由衣濱先生のこと。美人だって話したら、娘が会いたいって煩くて。旦那もちょっと心配しているみたいで……ふふ、おかしいですよね」
薬指にきらりと光るものを飾った手で、美月は上品に口元を覆った。
多希は最低限の愛想笑いで返し、手短に切り上げようとした。
「ごめんなさい。お待たせして」
「……多希? やっぱり、多希だ」
「……っ」
宏光[ヒロミツ]と呼びそうになる唇を、多希はぐっと噛んだ。
多希の背中に、懐かしい声が投げられる。多希はぎこちなく振り返った。
「え? あなた、由衣濱先生とお知り合いだったの?」
笑えているのか、分からない。泣きそうな顔をしているかもしれない。
親しみを込めた台詞に、美月が怪訝そうな声を上げた。
心臓も呼吸も、今の風景から切り離したみたいに、多希の耳に煩くこびりついている。
「昔、行きつけだったバーで出会ったんだよ。珍しい名字だったから、もしかしてと思って」
「そ……そうでしたね」
「そうだったの? それなら言ってくれればよかったのに。こんな偶然ってあるんですね。ね、先生」
つい最近まで、連絡先を消せなかった男が、今目の前にいる。
明らかに動揺した姿を見せたのは失敗だった。
もう何とも思っていないと、疼くことのない古傷だと、知らしめてやればよかったのだ。
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