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3巡目
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やってしまった。
式まで時間がある為、それまで休み時間が与えられた。他の連中は、トイレに行ったりしているが、一人燃え尽きたように、机の上に顔を伏せるおれ。まさか何も言わないと思わなかったんだ。仕方がない。…じゃあ、すまないんだよなあ。うーあー、ヤバいよー。もうおれ生きてい
「……あの」
「ひゃいっ⁈」
噛んだ。恥ずかしい。一体誰だ、人が後悔しているときに、いきなり話し掛けてきたやつは!くすくすと、前から控えめな笑い声がする。……、ん?前?身体を起こし、前をみると、記憶よりもだいぶ幼い黒子が立っていた。……おう、マジか。
「いきなり話し掛けてすみません。…さっきのことで、お礼をと思いまして」
「へ、お礼?」
さっきって、おれがつい言ってしまった、あの。……そうだよ、言っちゃったんだよなあ。……はぁ。頭を抱えるおれに、きょとんとした黒子は、あの、ともう一度声をかけてきた。
「あ、いや、なんでもないよ!…それで?」
「はい。…さっきは助かりました」
ありがとうございました。
そう言って、黒子は綺麗にお辞儀をした。
「ぁー、気にしないでよ。おれがただ気になっただけだから」
「いえ、そういうわけにはいきません」
おれが苦笑しながら、そう伝えると、黒子は顔を俯かせた。
「僕は、影が極端に薄いんです」
「え、あ、うん。そうみたいだね、さっきも気づかれてなかったし…」
ていうか、知ってるし。気づかれないように苦笑する。
「だから、僕は小さい頃からあまり人に認識されずに過ごしてきたんです。当然、僕から声をかけなければ、大半の人は気づいてくれません」
おれは、いままで自分がどんな残酷なことを考えていたか、後悔した。いくら事情を知らなかったとはいえ、浅はかな考えで、黒子を傷つけるところだったのだ。
「……ごめんな」
「え?いま何か言いましたか?」
「いや……」
おれが、そんな事を思っているとは知らず、黒子は嬉しそうに話を続けた。
「でも君は、降旗くんは違ったんです。両親以外で、君だけが、僕の存在に気づいてくれた」
凄く、嬉しかったんです。
違うんだよ、黒子。おれは、お前を知ってるんだ。だから、分かったんだ。そんなんじゃないんだ。言葉に出したくても、出せない。きっと、訳が分からないだろうから。
ーーーああ、苦しい。
でもやっぱり、それよりも嬉しさが勝つんだ。かつての仲間と話せた嬉しさが。本当は、こんな訳わかんない現象に巻き込まれて、参ってたのかもしれない。最低なことも考えてたおれだけど、
ーーーでも、
「……なぁ、黒子くん」
「はい、なんでしょう?」
ーーーごめんな、黒子
「おれとさ、」
ーーーおれは、
「友達になってよ」
ーーーお前らいないと駄目みたいだ
一瞬、世界が止まった気がした。目の前の黒子は、元々大きかった目をさらに大きく開いて固まっている。
「ぁ、」
「黒子くん?」
ゆらゆらと、目が揺れている。
「あの、だいじょう」
「本当はっ!!!」
予想以上の大きな声に、遮られる。吃驚して黒子を見ると、泣きそうな顔でこっちを見ていた。
「僕が、言いたかったんです。初めて気づいてくれた人と、出逢えたから。……先、越されちゃいましたけど、」
少し震えた声で、黒子は言った。
僕と、友達になってくれませんか?
「当たり前だろ」
思わず、おれも泣きそうになった。黒子はおれの返事を聞くと、未だ泣きそうだった顔をくしゃくしゃにして、微笑んだ。
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