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前編
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二月はチョコレート業界が騒がしい季節である。一昔前の日本では、女性が男性に告白する一大イベントだったが、現在のバレンタインは少々変わっていた。
「え、友チョコ? なにそれ?」
「俺と大悟は友達やろ。友達といえば、友チョコやんか」
用事があると行って出掛けたKに、帰るまで藤原の部屋にいるよう言われた大悟は、彼の部屋で漫画や雑誌を読んだり、ゲームをしたりして過ごしていたが、今日はバレンタインやなと藤原が呟いたことから、この話になった。
「バレンタインって、男性から女性に贈り物をする日じゃなかったっけ?」
「それ、アメリカバージョンな。日本では女子が告白して、その答えを1ヶ月後に出すっちゅうイベントやったんやで」
「だったら尚更、関係ないじゃん」
「イベントやったゆうたやろ。今はちゃうねん。本命チョコは勿論、義理チョコ、友チョコ、ご褒美チョコってめっちゃ種類が出来てんねんで」
「なんか面倒くさそうだね」
平和な日常を取り戻したばかりということもあるが、大悟はそういうこと(イベント)に基本的に興味がない。
「面倒くさいとかゆうなや、ほら、俺からの友チョコや」
そう言うと、藤原はスーパーでよく見る板チョコを差し出した。勿論ラッピングはしていない。
「え、これ?」
「手抜いたわけちゃうで。気合い入れたらケイちゃんにシバかれるからな」
だったら渡さなくていいのにと思ったが、ありがとうと言って、受け取った。
「その様子やと、チョコとか用意してへんな」
「うん。さっき知ったばかりだし」
「ケイちゃん、待ってるんとちゃうんか」
「でも、何も言われてないよ」
Kは朝早く出掛けていったし、バレンタインをほのめかすような話もしていなかった。
「なんか言われたら、この板チョコ使えや。これぞ友チョコやな!」
「えー、それはないって」
「そやな。大悟の場合、自分がチョコやゆうたら、ケイちゃん、イチコロやもんな」
そして夕方、帰ってきたKと共に、大悟は自宅に戻ったのだが……
「何コレ?」
「えっとね、チョコが滝になって流れるやつ」
箱に記載されていた商品名は、チョコレートファウンテン。溶かしたチョコレートを流す機械らしい。
「今日はバレンタインだろ。せっかくだから、ハニーがくれたチョコを溶かして、食べたいなぁって思って」
「え、チョコ?」
「うん、チョコ。はい、これ、俺からハニーの分ね」
Kは綺麗にラッピングされた箱入りのチョコレートを差し出した。それを見て、大悟は顔色を変えた。
ど、ど、どうしよう!?
Kがチョコレート用意してただなんて。
しかもこれ、ものすごく高そうなやつじゃん!?
「あ、ありがとう……」
「どういたしまして。えっと、とりあえずコレ溶かしちゃう?」
「そんなのもったいないよ。だったらコレで!」
ここぞとばかり、藤原からもらった板チョコを差し出す。友チョコの本領発揮であるが、藤原が冗談で言ったことに、大悟は気づいていない。
「スーパーで売ってる板チョコじゃん」
「いいの、これで!」
さすがにスーパーの板チョコ、しかも藤原から貰ったものを、Kに渡すわけにはいかない。これは材料として使うのが一番である。
「あのさ、ハニー、無理しなくていいからね」
「無理なんかしてないよ!? 俺からのチョコは……」
脳裏に藤原の言葉が蘇る。この場を乗り切るには、ああ言うしかないだろう。
「ん?」
大悟は何度かKの顔を見やった後、小さな声でこう呟いた。
「だから、Kにあげるチョコは、俺、かなって……」
素直にバレンタインを忘れていた、もしくは知らなかったと言えばよかったのだが、Kからのプレゼント攻撃に慌てた大悟は、我を失っていた。
「え、マジで!? やったぁ!」
Kはガッツポーズをした後、チョコレートファウンテンの箱が入っていた紙袋の中から、ある物を取り出した。
「買ってきてよかったわ。お風呂沸かすね」
「え、なんでお風呂?」
「これ、チョコレートの入浴剤」
パッケージは確かにチョコレートであるが、よく見れば入浴剤となっている。チョコレートは食べるものであって、浸かるものではない。大悟の開いた口は、なかなか塞がらなかった。
「ハニーは、普通のチョコとホワイトチョコ、どっちがいい?」
どっちも嫌だと言いたかったが、今回ばかりは何も言えない大悟である。
「Kの好きな方で、いいよ……」
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