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あのあと手持ちのゴムがなかったというのに、エッチな声を聞きたいという理由だけで、浩司兄ちゃんは僕に触れ続けた。
(このまま僕だけイかされてるは、どう考えてもやっぱり嫌だし、浩司兄ちゃんとひとつになって一緒にイキたい)
さっきまでのことを思い出しつつ、生徒玄関で意中の人を待つ。浩司兄ちゃんは用事を中断して僕を助けた経緯があり、それを終えるために現在先生に頼まれたことを急いで手がけている。
「龍!」
「あれ、怜司?」
部活にいそしんでいる怜司が、わざわざ駆け寄ってきた。ジャージ姿なのに背が高くて顔もいいから、まるでブランド物のジャージを身につけているように錯覚してしまう。
「兄貴を待ってるのか?」
「うん。怜司が気を利かせてくれたおかげで、浩司兄ちゃんってば、用事を放り出しちゃったんだ。慌てて今頑張ってるよ」
苦笑いでそれを告げたら、怜司はいきなり僕の頭を撫でる。
「慌ててるのは龍もだろ。髪の毛乱れてる」
「うっ、ありがと……」
「変なヤツに絡まれてない?」
ひとしきり僕の髪の毛を整えてから訊ねられたセリフに、首を横に振ってみせた。
「よかった。龍は自分が思うよりもキレイなんだから、気をつけろよ!」
「キレイなんて、なにを言ってるんだよ」
ぶわっと頬が熱くなったことで、赤面したのがわかった。
「兄貴だけじゃなくて、俺もそう思ってる。だから気をつけてほしいんだって」
「怜司?」
小首を傾げて彼の名を告げると、ハッとした顔で背中を向ける。
「とにかく気をつけろってこと。トレーニング中だからもう行くな!」
まくし立てる感じで喋り倒し、逃げるように走り去って行く背中に「バイバイ」と告げても、聞こえていないだろう。
『兄貴だけじゃなくて、俺もそう思ってる』
(浩司兄ちゃんだけじゃなく、怜司もそんなふうに、僕のことを見ているなんて――)
以前と変わっていないと思っているのは、僕だけなのかな。恋をしたらキレイになるのは、女のコだけじゃないのかもしれない。
「お待たせ、龍!」
俯いて赤い顔を隠していたら、浩司兄ちゃんが颯爽と現れた。
「浩司兄ちゃん……」
「あれ、なんか顔が赤いけど大丈夫か?」
ぐいっと顔を近寄せた浩司兄ちゃんに指摘されたせいで、余計に意識した。大好きな人の目に自分が映っているだけで、胸が痛いくらいにドキドキしてしまう。
「え、あの……さっきまでのことを思い出してしまって」
怜司のことを誤魔化すべく、違うことを口にする。怜司に言われたことで顔を赤くしてるのを浩司兄ちゃんが知ったら、きっと気を悪くすると考えたから。
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