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「父が…、入院したと…電話があって…」
久貴が、震える声で話を始めた。
「入院?」
久貴の不安定な様子から、余程具合が思わしくないのかと、五木が眉をしかめる。
「あ、入院って言っても、そんなに危ない状態とかではなくて」
五木の様子に、誤解を招かないようにと、久貴が説明を加える。
「そうか」
ホッと息を吐くと、五木は再び久貴のペースを尊重し、柔らかく背中を撫で始めた。
「もう、実家とは長いこと連絡を取ってなかったんですが…。
日中、叔母から連絡があって、母に携帯番号を教えても良いかと聞かれて」
「叔母って、高校時代に世話になったっていう?」
五木は以前、少しだけ聞いた事があった。
事情があって、高校二年の途中から、久貴は叔父夫婦の家で暮らしていたと。
その“事情”が何なのか、敢えて詳しくは聞かなかったが、久貴の様子から察するに、やはり親子関係に問題があっての事なのだろう。
「ええ。
それで、母から連絡があって、父が…倒れたと。
検査入院して、異常なければすぐに退院できるらしいんですけど…。
急逝した叔父の事もあるから…。
いつ何があるかわからないんだから…この機会に…会いに来るように言われて…。
…でも…」
そこまで告げると、久貴は嗚咽を漏らして、五木にしがみついた。
その様子は、どう見ても父親の健康を心配する息子のものではない。
久貴は何かに怯えているようで、けれども、それを無理に聞き出す事は、久貴の心の傷を抉る事にも繋がるようで。
五木はただぎゅうっと抱き締めることしか出来ない歯がゆさに、己を責めた。
「…オレ、どうしたらいいか…解らなくて…」
久貴が、苦痛に満ちた声音で訴える。
胸が締め付けられるように痛み、呼吸もままならない。
五木の反応を確かめる事すら今の久貴にとっては恐怖で、ただ震えながら五木の胸に顔をうずめるしか出来なかった。
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