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拾った捨て猫
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タヌキ親父の所から戻った葵依は、現金の入った鞄と共に、拾った野良猫を見せるかのごとく、誓斗の前にフリックを掲げた。
親猫に咥え運ばれる子猫のような状態で、首根っこを掴まれ差し出されるフリック。
「逃がせって指示出したの、久家野?」
現金を受け取った誓斗は、こっちは違うというように、フリックをあしらう。
「違う。俺だ」
発した声に、葵依の視線が誓斗から俺へと遷移する。
「ぅ、あ……」
捕まれているフリックも、引き摺られるように俺の目の前へと移動した。
「こいつ、フリック。行くとこないんだって」
あの屋敷から放てば、食い逸れて詰む人生しか見えないこいつを、何故に逃がせと指示したのかと、葵依の瞳が責めてくる。
俺は、差し出されるフリックを同じように首根っこを掴み受け取り、口を開いた。
「金だけ盗んだら、こいつら無駄に酷使されんだろ。そういうの嫌なんだよ」
言い訳がましく紡いだ俺の声に、誓斗のケラケラ笑う音が重なる。
「本当、お前ブレないよなぁ」
あははっと楽しげに笑う誓斗。
あっけらかんとした誓斗の姿に、葵依の瞳に浮かんでいた苛立ちは色を薄め、代わりに呆れが取って代わる。
「じゃ、あとはよろしく」
ひらひらと手を振り去っていく葵依。
誓斗は我関せずと、傍で鞄をひっくり返し、金を数え始めた。
首根っこを捕まれたままのフリックは、捨て猫並みの哀愁が漂う瞳を俺へと向けてくる。
どうすっかな……。
逃がせとは言ったが、拾ってこいと指示したつもりはなかった。
だからと、俺まで手を引いてしまえば、こいつは路頭に迷ってしまうのだろう。
葵依を拾ったのは、直(じか)に会い、俺たちの仕事に適正があると判断したからだ。
手の中でぷるぷると震えるこの小動物に、葵依並みの素質があるとは思えなかった。
「慰みもの…? 都合のいい性処理の道具とでも思ってもらえ……」
自信なさげに紡がれる言葉に、俺の眉間には、じわりじわりと縦皺が刻まれていった。
あからさまに不機嫌を顔に出す俺に、フリックは、あわあわと焦りながら言葉を足す。
「す、ストレス解消に、殴ったり蹴ったりとかでも……」
言葉に、俺の視線がフリックの肌を這いずる。
手の甲や首筋、見えている数ヶ所に紫色に変色した痣が見えた。
抱かれた上に、飽きたら暴力を振るわれていたのかと、タヌキの顔を思い浮かべ歯噛みする。
「どっちも間に合ってる」
性欲など、誓斗の相手をしていれば溜まる隙もないし、俺にとっての無意味な暴力は、ストレスを増幅させるだけだ。
俺の言葉にフリックは、しゅんと肩を落とす。
「やっぱり僕、要らないよね……」
たははっと情けなく笑うフリック。
俺がこの手を放したら、さらさらと崩れ落ち、風に舞って消えてしまうのではないと思わせる儚さがあった。
「まぁいい。どっちもする必要はないが、置いてやる」
自分には、なにも価値がない。
生きている意味もない。
そんな空気感が、堪らなく嫌だった。
しばらく傍に置き、性根を叩き直してやろうと考えた。
自分の生きる価値は、自分で見つけ、自分で磨くものなのだ、と気づくまで。
ぱっと放した手に、先程とは打って変わった、きらきらと煌めくフリックの瞳が俺を見上げた。
「マジ? やっぱやめたとか、言わない?」
さっきまでのしおらしい姿はなんだったのだと思わせる変貌ぶりに、若干引いた。
ぱちぱちと瞬かれる瞳からは、期待に満ちた圧が溢れる。
「……二言はねぇよ」
そうとしか応えられなかった。
場の空気に…、フリックの圧に、飲まれていた。
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