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消せない、忘れられない
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いつもなら、休憩がてら居間へと降り、嗜む〝ブラン ティーガ〞を今日に限って、デスクから手にした誓斗。
「またかよ……」
シガレットケースを開けた誓斗は、あからさまに減っている本数に、俺をじとりと睨む。
無くなったのが、居間の〝ブラン ティーガ〞では、直ぐに気づかれてしまうだろうと、あえて2階のシガレットケースから、移動させていたのが仇となった。
唯愛の名を伏せ、俺が吸ったのだと誤魔化そうと思ったが、出来心が顔を出す。
フリックの告白を聞いてから、俺の慰めを求めてこない誓斗に、心の端がじりじりとした燻りを抱えていた。
手を出してこない誓斗を、煽りたくなってしまったのだ。
「唯愛の売人が高飛びしたらしい。早めに次、見つけるとは言ってたけど…まあ、かかるだろうな」
つらりと放った俺の声に、細めた瞳のままに目減りした〝ブラン ティーガ〞を睨めた誓斗は、溜め息ひとつで気を鎮めた。
「……俺の仕入先、漏らすなよ?」
「わかってる」
俺の返答を聞いた誓斗は、シガレットケースの蓋を閉め、部屋を出ようと足を進める。
部屋の扉に差し掛かった誓斗の腕を、ぐっと掴み引き留めた俺を、怪訝そうな瞳が見上げてきた。
「なんで〝抱け〞って言わねぇの?」
俺の問いかけに、不思議そうな色を浮かべる誓斗に、言葉を重ねた。
「なに、遠慮してんだって聞いてんだよ」
「遠慮?」
俺を見詰めていた瞳が、きょとんとした色に染まり、その首が傾げられる。
なんの話だとでも言うように、白々しく惚(とぼ)ける誓斗に、ちりりと胸の燻りが燃え広がった。
「あんたらしくないって言ってんだよ。あんたが気兼ねするのは、唯愛だけで充分だ」
俺を惹きつけて止まないその瞳を隠す目蓋に、唇を落とす。
流れてもいない涙を拭うかのように、誓斗の頬に親指を滑らせた。
離れた唇に、開いた目蓋の奥から現れた瞳は、面倒臭そうに逸らされる。
こちらに意識を向けさせようと、頬を撫で、中指で顎を上げさせた。
かち合った瞳に、誓斗の心が白旗を上げた。
「あんだけ好きだって言われたら、普通、こんな愛もなんもない肉体だけの関係、断ちたくなんだろ?」
ふぅっと呆れ混じりの息を吐いた誓斗は、自分の心臓付近をツンツンっと突っついた。
「俺は唯愛をこっから消せないし、忘れられない。可能性もなんもない相手より、想ってくれてる人の方がいいに決まってるしな。お前がフリックとそういう関係になるんなら、俺は引くべきだろ」
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