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1つしかなかったのに
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あの家を出たところで、僕に行く当てなんてない。
なんとか絞り出した行き先は、1つだけ。
〝逃がせ〞と言われたからと、無理矢理に連れ出されたあの屋敷だけだった。
現地に着いた僕は、茫然となる。
目の前には、『売家』の文字。
垂らされている鎖を跨ぎ、玄関まで行ってみたが、案の定、施錠されていて中には入れなかった。
疲れてしまった僕は、玄関の脇に腰を下ろす。
足を投げ出し、背を壁に預け、ぼんやりと真っ暗な空を眺めていた。
静かに地面を踏む音が聞こえる。
不法侵入で捕まるかもしれないと思いながらも、立ち上がるのも面倒で、逃げようという気すら起きなかった。
すぐ傍まで迫った相手が、目の前に、すとんとしゃがみ込む。
「お前なぁ。なんのために逃がしてやったと思ってんだよ?」
じっとりとした瞳を向けてきたのは、エイムだった。
「だって、原井の所に居ても、なんも出来ないし……。ここでの方が、まだ役に立ってた気がするし……」
ぶつくさと文句を垂れる僕。
「お前の元の飼い主は、もういねぇの」
はあっと面倒臭げに溜め息を吐いたエイムは、立ち上がり僕の首根っこを掴む。
「原井の所には帰んないっ」
僕を掴むエイムの腕を叩きながら、声を放った。
だけど、テイルにすら敵わない僕では、エイム相手では、いかんともし難い。
「わかった。わかった。とりあえず、俺ん家でいいから。行くぞ」
半分引き摺られるように歩く僕。
上から降ってくるエイムの声は、楽しげな色を散りばめる。
「みっけた。やっぱ、お前すごいな」
エイムは、歩きながらテイルへと電話を入れ、状況説明中だ。
「行くとこないのに家出したなら、そこしかないでしょ。家に来るかもって言ったけど、真っ直ぐ事務所に連れていったんだから、こっちに来れる訳ないじゃん……」
電話から漏れ聞こえるテイルの声は、若干の呆れと不満が混ざる。
「悪かったって。一旦、うちで回収するから。原井に連絡入れてもいいけど、迎えは少し待てって伝えて」
エイムの言葉に、テイルは疑問符を浮かべるように黙っていた。
「原井のとこ、帰んねぇって駄々捏ねてってから」
ちらりと寄越されるエイムの視線に、バツが悪い僕は、そっぽを向く。
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