アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
episode 4
-
「全然大丈夫じゃないじゃん」
あの日から、碧の態度が変わった。
それは、事情を知らない奴からしたら、きっと気付かないくらいの変化だけど……後ろめたさがある俺からしたら、大きな変化に感じられた。
まず、傍に寄ることができない。
明らかに、俺と距離を取っているのがわかる。2人きりになることを、避けているのが伝わってきて……そんな碧を見る度に泣きたくなった。
「碧!」
必死に名前を呼びながら腕を掴めば 、そっと手を振り払われてしまう。そして、悲しそうに笑ってどこかに行ってしまうんだ。
「ごめんね」
って、悲しそうに呟きながら。
そんな事の繰り返しだった。
それは、小さい頃に遊んだ影踏みみたいだった。
友達の影を踏もうと一生懸命追いかけるんだけど、なかなか追い付けない。
もう少しで影が踏める!……と、思いきりジャンプして最後の一歩を詰めれば、日陰に隠れられてしまい、その影さえ見えなくなってしまう。
今の俺には、碧の影さえ見えなかった。
碧が、日陰に隠れてしまったから。
碧が自分の傍から突然いなくなって、途方にくれていることに気付く。
いつも、当たり前のように傍にいてくれた碧。どんなにワガママを言ったって、キツく当たったって、笑って許してくれた。
俺は、そんな碧に甘えきっていたんだ。
当たり前の存在が、突然自分の傍から消えてしまうことの絶望感を、俺は身を持って体験していた。
子供みたいにじゃれあって、碧にまとわりついて。 そんなあの体温や匂いが、メチャクチャ恋しかった。
碧に触れたいって思う自分に、また酷く戸惑ってしまった。
「なぁ、碧!」
講義が終わって、すぐに帰ろうとする碧を捕まえる。
俺は何とか、こいつと向き合いたかった。碧が自分の傍にいないっていう現実が、辛くて仕方なかったから。
「碧、なぁ碧……お願い避けないで」
「避けてなんかない。それはお前の気のせいだよ」
困った表情を浮かべて、俯いてしまった碧。
でも、今日は絶対に逃がしてなるもんか。
「あの日のこと引きずってんのか?」
「引きずるも何も、俺は記憶がねぇ」
「それって本当なのか?お前もしかして……」
その瞬間、また碧に口を塞がれてしまう。
俺の口に押し当てられた碧の手は、小さく震えていた。
「本当に覚えてないよ。ごめんね?避けてるように感じてるなら、これからは気を付けるから」
いつもの碧らしく、ニッコリ微笑んだ。
笑っているはずの碧が、泣いているように見えたから……咄嗟に碧を引き寄せて、抱き締めようとした。
でも、碧が両腕を突っ張り拒絶したから、それは叶わなかった。
「また明日ね」
可愛く微笑んだ碧が、ドアを開けて出ていってしまう。
ガチャン、と鉄の扉が閉まる無機質な音に、心が叩きのめされた。
だって、碧は泣いてたんだ。
笑っていたけど、泣いていたんだ。
碧に触れたい。傍にいてほしい。
いつもみたいに、じゃれ合っていたい。
俺は、この切なくて甘い感情を知っている。
もう長いこと、こんな甘くて苦しくて切ない思いなんかしたことがなかった。
なぁ、碧。
もしかして、これは恋、なのかな。
俺は、気付かないうちに恋のスタートラインに立っていたのかもしれない。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
5 / 7