アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
#4
-
人と人の縁を見極める。だが皮肉なことに、自分の運命の相手は見つけられない。
自分の糸を視認したことは一度もない。鏡の前に立って見ても、久宜の糸は写らなかった。
選択肢がない。
いや、そもそもこの力自体がいけないものなのかも。まるで品定めだし、軽い気持ちのアドバイスが人の一生を左右しかねない。他人の人生に責任なんて持てないのに。
翌日の夜、やはり彼は現れた。
「こんばんは」
「や」
青年は昨日と違い黒の帽子が追加されていた。酒も飲まないからマスクも外さないし、中々素顔が見られない。
こうなると意地でも見たくなってくるな。
「あのー、久宜さん」
「あれ。名前教えたっけ」
「有名人だって、さっき向こうでお客さんから教わりました」
不必要な情報開示反対。ウイスキーを飲みながら、頬を膨らました。
「久宜さんって何か可愛いですよね」
「君より年上だと思うけどね。何歳?」
「僕は二十二です」
へぇー。
「幼いなぁ」
見た目通り。飲んでたせいか声に出てしまった。そのやり返しなのか、青年は目を細める。
「久宜さんは隙だらけ。男の人に見られてても気付いてない。さっきホールで腰に手を回されそうになってたの、分かりました?」
「え。マジ?」
「マジです」
マジか。いや、それより。
「君、社会人? 大学生?」
「大学生です」
「そうか。でもな、二十歳過ぎててもここは学生が来るようなとこじゃないぞ。分かってないかもしれないけどゲイとビアンしかいないし……、それとも、ゲイだった?」
この時は反応を見たかった。顔を真っ赤にして否定する彼の。
だけど邪な気持ちを叩き落とすように、彼は即答した。
「ゲイです。貴方もでしょ?」
「は」
図星だ。すぐに顔が火照る。
「あはは、赤くなっちゃって可愛い」
「あのなぁ……」
彼を赤くしたかったのに、俺の方が赤面している。焦りと羞恥心から、追加でウイスキーをオーダーした。
「今付き合ってる人はいるんですか?」
「いないよ」
「いつから?」
「いつって……」
ずっと。
人生で一度も本気の恋をしたことがない。と、会って間もない歳下に言うのはとてつもない屈辱である。結果的に数年、と嘘をついた。
「君は彼氏が欲しいの? そんで俺のところに来て良縁に恵まれようと。金を出してでも」
一々引っかかる言い方をするのは、見栄と自己防衛の為だ。
他人から攻撃されることを恐れている。必ずしもそうとは限らないのに……一体いつからこんな臆病になったのか。
「……想いを伝える為に」
青年は呟いた。やっぱり攻撃的な答えじゃなかった。
「その人と僕は、確かに出会うべきだったんだって確かめる為に。だって今まで誰と過ごしても胸が昂らなかったから」
「ロマンチストだなあ」
少し驚いたものの、若いし良いことだ。たくさんの人と出会って、失敗して。昔の人は皆そうしてきたんだから。
「久宜さんは、今好きな人はいないんですか」
「さっきから質問攻め過ぎる。いないよ。いたらこの時間は恋人と家でイチャついてんだろうな。二人で仲良く飲んだり、」
「二人でベッドの中にいたり?」
「こら」
急に方向が変わった為、青年の頬を指でつついた。彼はおかしそうに笑っている。
あ、そういえば。
「名前訊いてなかった。何ていうの」
「秘密です。名前知らなくても縁は見られるんでしょう? 他の占いみたいに個人情報は必要じゃないし」
彼は手を振りながら階段を降りていく。
く、確かにその通りだけど。
俺の名前は知られてるのに、俺は彼の名前を知らないところが嫌で訊いたんだけど……。
思わず後を追いかけ、袖を掴む。
「飲まないの?」
「僕お酒はあまり好きじゃないので」
じゃあここにいても楽しくなさそう。けど存外、彼はホールの中央で踊っている連中を見るのが好きだという。
「久宜さんも踊ったら」
「俺は行かない。見る専」
二人で壁にもたれながら、眩いライトに目を眇める。
あれだけ光ってちゃ糸も見えないや。可笑しくて、ふと笑った。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
4 / 9