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#8
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関わる人が変わって、過ごす場所が変わって、新しいことを始めても時間は一定に流れる。
誰にも見えないものが見えても、自分はただの人間なんだと優しく諭されている。
「……そうか。言われてみればそうだな」
少し肌寒い、夜の潮風が当たる海浜公園。久宜は仕事帰りに呼び出され、なるべく歩幅を狭めて歩いた。反対に前を行く青年の足取りは早い。
「あ、一年頑張って働いたお祝いが欲しかったのか? しょうがねえなぁ、じゃあお兄さんが新卒の給料じゃ行けない店に連れてってやるよ。ついてこい!」
足早に追い越すと、今度は彼が足を止めた。
「おい、そのノリ悪いのそろそろ直したほうがいいぞ。同僚にも影で言われてるだろ」
「久宜さん。聴いて」
「ん?」真面目な顔に気付いて、思わずドキッとする。無意識に姿勢を正し、彼の声に耳を傾けた。
「俺はもう子どもじゃない。って、自分では思っちゃってます」
「うん」
「だから、俺と付き合ってもらえませんか」
そう遠くない距離に人がいるのに、彼の声は結構、いやかなり大きかった。
「おま……っ」
寒いぐらいだったのに、あっという間に指先まで熱くなる。
人の縁を占うバイトをやめ、平和な仕事だけで生きようと一新したところ。三十路を手前に、まさかこんな赤面させられるとは思わなかった。
「駄目? っていうか、嫌……ですか?」
「いやいや、嫌、ではない」
こんな反応になってる時点で、自分はとっくのとうに彼に心を許していて、……心を奪われてしまっているんだ。
「嫌ではない? てことは、良くもない?」
こういうとき、日本語ってせこいな、と思う。
「良い! 俺もお前のこと好きだから。俺でよければ、喜んで」
ただしかなり拗らせてるけど、と付け加えた。彼は少しの間ぽかんとして、それから嬉しそうに手を取ってきた。
「じゃあ改めて……宜しくお願いします! 絶対幸せにします!」
それ俺が言う台詞なんじゃないか……?
何か違う感が否めないけど、そういえば昔から彼の方が王子的な発言をしてたっけ。
迎えに行く、とか。
今になって思い出して、こそばゆくなる。深呼吸しながら彼の指をなぞった。
「じゃあ、俺も……そろそろ約束果たそうかな。子どもの時に言ったろ? お前と一番相性良いのは誰か、教えるって」
あの時は彼から止められ、俺自身も彼の縁が見えなかった。だから教えようにも教えられなかったんだけど、
「お前と一番相性良いのは、俺。どう? 驚いたろ」
「本当ですか? 久宜さんて平気で騙そうとしてくるからな」
「こんな時に嘘つくかよ! 本当だって。だって、見えないんだから」
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