アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
3
-
『俺、不幸な奴好きなんだよね』
はっきりと、そう真正面から言われた。しかも笑顔付きで。
「不幸なやつ、って……」
俺が聞き返すと、また俺の手から携帯を奪い取る。まるで自分の物のように。
「例えば、ずっと片想いしてた幼馴染にフラれたとか」
「!?」
「しかもその幼馴染と友達が付き合ってた、とか?」
「……っ」
次々と当てられて冷や汗が流れる。退きたいのに未だに佐久間蓮の膝から動けない。腰に片腕を回されてるってのもあるんだけど。
(いや、にしてもなんでわかるんだよ!)
今日一日も経たないのに、目の前の男に対してなんでと言う気持ちが強くなる。もはや怖い。
「そんな奴が好きなの、俺。どんなにガンバっても、報われないかわいそーな奴が」
芸能界の成功者はみんなこう思うのか? なんて疑問が頭に浮かぶ。
「で。月波クンに一つ提案があるんだけど」
(提案……? なんか、すげー聞くのが怖い)
「な、何?」
無視もできずに仕方なく聞き返すと佐久間蓮は口元を緩めて。
「俺と付き合う? ソイツらより優位にたたせてやるよ」
「……は?」
付き合う? 誰が、誰と?
言われてる意味が分からない俺に、佐久間蓮は続けて話す。
「一般人と付き合うより断然メリットあるでしょ。顔いーし、ルックス抜群だし。だから、そんな奴より俺にしとけば?」
「──…………」
顔がいい? ルックスが抜群……?
それだけで、佐久間蓮と付き合えって?
そもそもメリットってなんだよ。てか、俺たち今日初めて会って……。
(マジで、意味わかんねぇ)
怒り、を通り越して逆にすっと冷静になる感覚。それは、初めて感じる感情だった。
「……月波クン?」
俺は佐久間蓮の膝から退く。前髪の隙間からキラキラと光る銀色の目は、やっぱり綺麗で。眩しかった。
でも、口から出てくる言葉は全然違う。
「俺は、メリットがあるからってだけでその人と付き合ったりしない。そんなの、周りが羨ましがることだろ」
「…………………………」
付き合うってそう言うことじゃない。周りが見てどうとか、じゃなく。少なくとも、俺の中では。
(俺は、ただ……)
「好きだったんだ。梨斗が、ずっと……っ」
一緒にいたかった。隣にいるのが自分だったらって、何度思っただろう。
家でたくさん泣いたのに、涙はまだ溢れてくる。
「うっ……」
クソ、こんな奴の前で泣きたくないのに。ボロボロと溢れてくる涙を手の甲で拭う。
(も、行こ……)
これ以上情けない姿を見せたくなくて、踵を返そうとした。
「……弱い犬のまんまでいいわけ?」
え?
立ち上がる佐久間蓮の長身に一歩後ずさってしまう。
「バカにされて、騙されて、裏切られて。それでも月波クンは黙ってんの?」
今さっきとは口調が違う。キラキラと輝いていた目に、黒が落ちた気がした。
その一瞬だけ、別人に見えてしまった。
「俺は、そんなふうに思ってない……! それに、さ、佐久間くんは自分の事雑に扱いすぎっ。今日知り合ったばっかの俺になんでそんな事言えるんだよ!」
アンタ、とはなんか言えなくて俺も苗字呼びで呼んだらぎこちなくなってしまった。
大体、立場的にスキャンダルはアウトなのでは……。
「……………………………」
「? どうし、っうわ!」
急に黙る佐久間蓮を下から見上げると、携帯を投げ渡される。
あ、あっぶな!
「趣味だから。不幸な奴見んの」
ぁあ、だからからかってんのか!
横を通り過ぎる佐久間蓮に付き合う? と言われた意味をそう捉えてしまう。
真面目に返した俺がバカみたいじゃん! しかも泣いてまで。
「っ、悪趣味!」
「ナイショね。これ、公式で公開してないから」
知るかっ。
振り返ってわざわざ唇に長い人差し指を当てながら言う。
……それと、
「あと、キスも」
「っ!?」
ふっと笑って、付け加えるように言われた言葉にボンッと顔が熱くなる。
(そう言えば、キスっ……)
「俺、初めてだったのに!」
「へぇ、奇遇だね。俺も」
「嘘つけ!!」
即答で叫ぶ俺に笑う佐久間蓮。その目はまた元の輝きに戻っていた……。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
5 / 7