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内側からロックされた部屋は彼が何度叩いても、問い質しても、開くことはなかった。
仕方なくきびすを返し、トボトボと自室に戻る。
意趣返しではないが、部屋でもう一度内部まで洗い流し、着替えをしてから報告のために、医者の常駐している部屋に向かった。
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男が覚醒したのはそれから三日後。
医者の再びの知らせを受けて、彼は部屋に向かった。
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再び会った男は正面から彼を見据えた。
「あれ…?…あれあれあれあれ………????」
なんだか雰囲気違くない? そうつぶやく。
オリーヴがかったきんいろのまなこにこちらもぱちくりと見返してしまう。
「…お前が…、俺をたすけてくれたんだってな」
ありがとう、とベッドの上で頭を下げられた。
余りにもスーツを着ていた時の印象と違い過ぎて、思わず医者を見遣った。
「…………以前のことは、何も覚えていないそうだ」
チッと舌打ちを漏らして、医者はベッドの背を動かす。何をするのかと見ていると、コイツは何処も悪くないし身体も元気だから、入院ベッドに寝かせておくのはよくないとのこと。
慌てて起き上がって素足のまま床に立つ彼に手を貸してやる。
ありがとな、と歯を見せて笑う笑顔が妙に眩しい。
医者に追い払われ、二人はそのまま狛枝の自室へと向かった。
「キミの名前は何て言うんだい?」と言ってから、彼の眉間にシワが刻まれたのを見て取る。
「覚えて…ないんだ…何も…なんにも…」
長いくろかみを抱えて、身体を折り曲げる。
「本当に…何も…名前も…どこに住んでたとか、家族とか、そういうの」
家族という言葉に思わず視線をそらす。
彼は苦悩を具現化したようなポーズで丸まっている。ため息をついて、注意を促す。
「じゃあ、とりあえずハジメ君て呼ぶよ…初めて会ったのがボクだったということで」
全くなんにも考えずに付けた名前に、彼の表情が明るく変わった。
子犬のようにこちらへの好意を全開にしながら日向は聞いてきた。
「お前は?お前の名前は何て言うんだ?」
聞いて来る彼に名前を告げる。
暖かい手で握手を求められ、困惑したままその手を握り返した。ちょっと固いおおきなおとこのこの手。
「狛枝? 狛枝かあ! そう呼ばせて貰うぞ!よろしくな」
自分はベッドに座り、ハジメは床にちまりと座っている。本当に子犬みたい。
「ああ…うん。ハジメ君…よろしくね…」
あまりにも、スーツの彼と印象が違い過ぎる。自分が知らない間に取り替えでもしたのでは、と思うが、そんなことをして誰の得にもなんの得にもならないのは事実だ。
スーツはとっくに検分され尽くされ、おそらく処分されている。
備品の清潔なシャツとスラックスを与え、ふとその長い長いくろかみが気になった。
「ねえ…その髪…触っていい…?」
おそるおそる伸ばされた指にハジメは目を丸くし、顔を近づけて目を閉じた。きんいろの瞳が隠されると、途端に幼く見える。
「ああ、いいぞ…」
するりと一束つかみ、さらりと撫でた。
「なんで…こんなに長いのかなぁ…?」
手触りはいつかの夜と変わらない。するすると指の間から流れ落ちてゆく長いくろかみ。思わず、その一束に口づけた。
ギクリと強張る彼の表情を見ながら、疑問を口に乗せる。
「俺には…わからないから…今の俺はわからないから…狛枝が思うなら…切ってもいいぞ…」
もったいないとは思ったものの、床に渦巻く今の長さを見ると、正直生活には不便そうだ。彼はもう自分のモノなのだから、本人がいいと言うなら切ってしまおうか。
伸ばしていた理由はともかく、おんなのこじゃあるまいし、それにまた伸びるし、記憶を取り戻せたらまた伸ばすのもいいだろう。
髪は明日、切ることにして、とりあえず狛枝はベッドに彼を誘った。もう夜も遅い。
「ねえ…悪いんだけど、キミはもう…ボクのモノだから、一緒に寝てね…」
あくびをしてベッドに潜り込む。
いや、俺はソファか床でいい、と言う彼の髪をつかみ、ベッドに引きずり込んだ。そのまま二の腕に頭を預ける。
「逃げたり他のところで寝てたりしたら承知しないよ」
クスクス笑いながら伝え、目を閉じた。
セックスをしないで誰かと寝るなんて久しぶりだ。そんなことわつらつら考えたけど、二人ぶんの体温がじょじょに上がって来て、狛枝は眠りに落ちて行った。
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