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あっさりとフラれた <Side 鳳来
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「俺と〝恋〞しませんか?」
突如、降ってきた言葉に、声の主を見上げた。
背が高く、がたいのいい男が、ウイスキーのグラスを片手にオレを見下ろしていた。
ツーブロックの真っ黒な髪は、顔がよく見えるオールバック。
大きな口の端は上を向き、ノンフレームの眼鏡の奥から覗く瞳は、唇同様に優しげな三日月を描いていた。
人好きのする柔らかな笑顔に、男に似合いの明るいグレーのスーツ。
一流の営業マン然とした空気が、男を包んでいた。
ただ、どれだけ人当たりの良さそうな柔和な雰囲気を纏っていても、初対面の相手に〝恋をしよう〞などと声を掛けるのは、不審に思われても仕方ない。
「は?」
お前は何を言っているんだと、怪訝な思いを詰め込んだ音を放ち、白い目を向けるオレに、男は隣のカウンターチェアを引き、ゆったりとした仕草で、そこに腰掛ける。
数分前――。
オレは、2ヶ月ほど付き合った男に、フラれた。
腰を擽るように触ってきた彼氏…、もとい、元彼の手をぱしりと跳ね除けた。
「やめろ。人前だ」
拒否するオレに、彼は口角を持ち上げる。
言い表すのなら、ニヤニヤという音が一番嵌まる顔だった。
「いいじゃん、別に。ここはそういう場所だろ。誰も気にしねぇよ」
そういう場所。
つまりは、同性愛者であるオレたちがイチャついていたところで、誰も気にしない…、マイノリティにも優しい場所という意味だ。
だが、ここで許してしまったら、こいつのスキンシップに拍車がかかりそうな気がした。
そのうち、見境なく公衆の面前で、キスでもしてきそうな危うい勢いが、肌を炙っていた。
「そういう問題じゃねぇんだよ。お前、最近、節操無さすぎ」
はあっと、わかりやすい溜め息を吐く。
〝そういう場所〞であるここでだけならまだしも、駅のトイレ、路地裏、居酒屋の個室…人目がない場所で隙あらば触れてくるこの男に、うんざり感が胸中に降り積もっていた。
「……好きだから触りたいし、ヤりてぇと思うの当たり前だろ。そんな、オレに触られんの嫌なわけ?」
浮かんでいた下品な笑みが消え、彼の眉間に数本の縦皺が刻まれる。
機嫌取りをするのも面倒になったオレは、もやもやとする腹底を、そのまま吐き出しにかかる。
「そうは言ってない。でもお前、それは身体目当てだって言ってんのと同じだぞ? ヤりたいだけなら、セフレでも作れば? オレは降りるけど……」
ヤりたいだけの男相手に、恋愛もくそもない。
ただでヤるための恋人なら、〝彼氏〞なんて称号は、のしをつけて返してやる。
「めんどくせぇ。お前は、降りんのな? なら、それでいいわ。じゃあな」
ちょっと顔が良いからってお高くとまってんじゃねぇよ…と、捨て台詞付きで、あっさりとフられたのが、ほんの数分前だ。
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