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第四話 車椅子(五)
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「薄珂、押してみろ」
「このまま? 立珂落ちない?」
「ゆっくり押せば落ちない。いいから押してみろ」
「うん……?」
薄珂は恐る恐る車輪付きの椅子を押した。するとほんの少しだけ椅子が前に進むが、薄珂と立珂は何が起きたか分からずじいっと椅子を睨んだ。
「……床が動いてる」
「違う……立珂が動いてるんだ……」
「僕は動いてないよ……」
「立珂だよ。立珂が椅子ごと動いてるんだ……」
「今度は立珂が自分で動かしてみろ。車輪に付いてる輪っかを前に押すんだ」
立珂は輪っかを握るが、何が起きるか分からない状況だからか不安そうにした。それに気づいた金剛が薄珂を立珂の向かい側に立たせ、自分は立珂の横に立つ。
「薄珂に向かって進め。転ばないように支えてるから安心しろ」
「う、うん……」
立珂は、ん、と手に力を入れて輪っかを回す。するとすいすいと前に進み、あっという間に薄珂の元へと辿り着いた。いつもなら床を這って羽を引きずり躓きながら数分かかる距離だ。薄珂は目の前にやって来た立珂が本当に立珂なのか確かめるように手を伸ばした。顔を包むようにぺたりと頬に触れると、そこには温かい立珂の体温がある。
「凄いぞ! 一人で動けるじゃないか!」
「うん! うん! 僕動けたよ!」
「こいつは車椅子という人間の作った医療用道具だ。元は足の不自由な人間用だったが、羽に困る有翼人へ配りたいと人間と獣人が協力して量産を急いでる」
「人間と獣人が有翼人のために……?」
「そうだ。迫害されてきた有翼人は人前に出たがらない。だから何が苦楽か生態も分からない。だから知って、助けたいと考えてるんだ。少なくともこの里の皆は」
ん、と天藍は玄関扉の方を見るよう目線で促した。その視線の先にいたのは長老と、里の大人達だった。
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