アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
プロローグ
-
プロローグ
それは、ある晴れた爽やかな日の事だった。
駅から歩いて数分の場所にある喫茶店。
そこは小さな花屋の隣にある落ち着いた雰囲気の店で、常連の客たちが珈琲を飲んでいた。
海外でバリスタの資格を得たという若い店主の淹れる珈琲は格別で、帰りに挽きたての豆を買って帰る客もいるほどだ。
隣から仕入れているのか、店内とテラスには新緑のプランターが並んでおり、ジャズピアノの音楽と共に大変居心地が良い。
その店主がそわそわと黒いエプロンを取り外し、柔らかなこげ茶色のくせ毛を撫でつける。
前髪も撫でつけるが、ぴょこりと髪が跳ねてしまった。
気を取り直して用意した花束を抱える。
白をベースにした可憐な花束を、どこから渡せば相手に一番美しく見えるか調節しながら、一歩一歩、テラスの方へ近づいていく。
店内の常連客もその様子に固唾を飲んで見守っていた。
(いいぞ、男なら勢いだ!)
定年退職後の楽しみに喫茶店に通っている初老の男性が心の中で応援する。
(とうとうね!)
(店長さん、頑張って!)
どんな花束がよいのだろうか、アドバイスを聞かれた近所の女子大生二人がエールを贈る。
若い店主は、テラスで一人珈琲を飲みながら本を読んでいた美人に近づいていった。
「あああ、あの、こっこんにちは!!」
「……? こんにちは」
長い黒髪を三つ編みにして肩から胸にかけて流していた美人は、読んでいた本から顔を上げ、直立不動になっている店主を見上げる。
「……なにか?」
「あ、あの、今、ここ、この瞬間だけは、この店の店員とは思わないでほしいのですが」
「はぁ」
「その、ご不快になったら、もう二度と個人的にお声を掛けません。一番なのは、お客様の憩いの時間を提供することですから。ですが、その、駄目だったらすっぱりと諦めますので、一瞬だけ僕に時間をください……!」
「今だけは店主と思わないように……ということでしょうか」
「はひっ!!」
緊張で声が裏返る。
周りがじりじりと椅子を近づけ、耳を大きくしてその様子に固唾を飲んで見守る。
「ではなんとお呼びすれば」
「たた、橘と!」
「それで、橘さん。私が何か……ご迷惑でも」
「いえ、そんなことありません! いつも可憐で美しくて、清廉なあなたが来てくださって、とてもうれっ嬉しいです!!」
「ご迷惑をかけていないのなら、良かった。……それで、お話とは?」
橘と名乗った店主は、真っ赤になった顔で一呼吸をすると、花束を差し出す。
「いつも喫茶店に来てくださっている、あなたに一目惚れしました!! 結婚を前提にお付き合いしてください!」
シンと静まり返る中。
……小さく返答が返る。
ダメ元で告白した店主は、口を小さく開けたのち、潤んだ目で歓喜の声を溢した。
見守っていた常連客たちから、祝福の声が上がった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
1 / 5