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案内された部屋に入るなり、背後の男はクリスの後頭部に銃を突きつけた。この感覚には覚えがある。
ここで撃たれたら、即死決定だ。
「……なんですか?」
そのまま両手を軽くあげると、クスッと笑う気配がした。
「ずいぶんと冷静なんだね。銃を突きつけられた人間は、もう少し狼狽えるものだよ。」
「この国で生まれ育っていれば、突きつけられるくらいは何度も経験しますから…」
だが、本当に撃たれたことはない。肌の色のおかげ、というのもあるかもしれない。平等に、というくせに、この国の警官は未だ、人種差別的なことをすることがある。悪ガキ仲間の中にも、一人、黒人の少年がドラッグでラリッて暴れて、警官に銃殺されたヤツがいた。
今になって思い出しても、遅いが、自分でもさっき、思っていたじゃないか。この男は自分のことを知りすぎている、と。目的はなにかしらあったのだろうが、ピアノを弾いたことで、そんな思いは霧散してしまっていた。それも、この男の計算のうちだったのだろうか?
横目で彼を見上げるけれど、急に態度を変えた、この男の翠色の眸は感情が読めない。
突如訪れた生命の危機に、底知れない恐怖があるのは事実だが、それを表に出してガタガタと震える姿を見せたくはない。すでに一度、殺されかけた身だ。2度あることは3度ある、というが、ここで殺されるなら、次はないだろうが、生かされたなら、もう一度あるのかもしれない。3度目の正直、という言葉もあるくらいだ。半ば諦めるような気持ちになる。
けれど、弱みは見せたくない。虚勢を張るしかなかった。
「僕は君から良い返事が欲しいだけだ。」
「何に対する返事です?賭けはあなたの勝ちです。そこに逆らう気はないですよ?
それ以外の話だったとしても、内容も聞いてないのに、良い返事も、悪い返事も、出来るわけないでしょう?」
そんな約束まで、交わした覚えはない。何のことを言ってるのかを聞かなければ、返事なんてしようもない。
「簡単なことだ。僕のために演奏をして、僕のためだけにその身を委ねてくれればいい。」
その言葉に違和感を覚え、聞き返す。
「……委ねる?」
「そう。僕は5年前のポーランドでの国際コンクールで、君を観たと言っただろう?その時に、君に一目惚れをした。
君が欲しくて、5年前からお祖父さんに相談してるんだが、どうも返事が思わしくない。だから、君の躰からいただこうと思ったのさ。本来なら、話合う約束だったんだが、それを不履行にされてね。君が本家の敷地に軟禁されただろ?日本公演の時さ。だから、こちらもそれ相応の対価をいただかなければ納得出来ないんでね。
……さぁ、君はどうする?」
「……なっ……!!」
「……簡単な話だよ。音楽を選ぶか、萩ノ宮を選ぶか、飼い殺しにされるか、僕の生涯の伴侶になって音楽を続けるか、たったそれだけの話だ。」
銃口を突きつけられたままで、選択も何もない。
生きる為には『Yes』以外の選択肢などあたえられていないのだ。
子供の頃から、その手のイタズラや誘いはあったが、ここまでのものは初めてだ。
サッとアルノルドは、ポケットから透明な袋に入ったソフトカプセル剤を取り出した。
「『Yes』ならこれを噛んで飲め。『No』なら鉛を撃ち込むまでだ。悪いが、僕も余裕がなくてね。そのカプセルは、ただの媚薬だ。中毒性はないから安心していい。キミも手っ取り早く快楽を得られる。処女を大切に扱いたいんでね。」
差し出されたカプセルを飲まなければ殺される。けれど、飲めば生きることは出来るが、犯される。
どっちを選ぶとしても、究極の選択であることには変わりない。性背別もする気はないが、当事者になるつもりもない。自分の性指向は少なくてもノーマルのはずだ。
が、蹄鉄はおろされている。相手は本気だ。
しかし、アルノルドの言う、余裕がないとは、いったい、どういうことだろう?
クリスは、出来る限りの冷静な声で、問い返した。
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