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王子様が手を離してくれない
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「……あのー、オレに何か…?」
「…………」
オレから出る音の中で一番穏やかな声で話しかけたところで、本日何度目かの無視をかまされる。
「はぁぁ……」
校舎裏。ゴミ置き場に向かうまでの薄暗い小道。
抜け道にしては結構な人数の生徒が行き交う中で、体内時計およそ10分はこうして手を握られていて、そろそろ周りの視線的が痛い。
おまけには俺の言葉にも無視ときた、クソデカため息が溢れるのもご愛嬌だろ。
そもそも教室移動のショートカットに最適だからとその道を選んだのが間違いで。むしろ逆。ギリギリ間に合うはずだった授業も、このおキレ〜な顔をした男のせいで見事大遅刻だ。
陶器のように白い肌と、羨ましいくらい艶のある金髪を睨んでも、そいつは目をオド…と泳がすだけで何も発さない。
「あー…、ごめん。そろそろ手、離してくれないかな」
「………」
はい 無視ですね。分かってたけど。
かといって、手を振り解こうとすると、そうはさせないとギュッと力を入れてくる。本当に何なんだ、何がしたいんだこいつは。
あと5分で欠席扱いなんだけど?
「ヒナー?何してんの?もしかして俺のこと待っててくれた?」
「いや何っていうか…手、握られてる?」
自販機に行ったきりだった要がピンクのマッチを振り回しながら、のんびりした歩幅で歩いてくる。あまりにも戻ってこないから、てっきりオレのこと捨てやがったのかと思ってた。
要には悪いが今はとても、「それ炭酸だろ」とか突っ込んでやれる状態じゃないんだ。頼むから、早く来てくれ。そんでこいつを引き剥がしてくれ。
「ん?手ぇ〜?誰に……って、あーーーー!!!」
誰に?知るか、オレが聞きたい。
と言い返すより早く、要が男の顔をまじまじと見て大袈裟なまでに驚いた。
「うわ、何っ。要の知り合い?」
「知り合いっていうか、王子様だよ!」
「はぁ?」
王子様だぁ?こんないきなり初対面の男の手ぇ握るような変質者がか??まったく世も末だな。
ちら、と未だオレの手を握ったままの金髪を窺っても、なんの反応もない。というかまずオレのこと見てすらいない。勝手に握りしめておいてどういう了見だ。
早々に王子サマとご交流を図るのはやめて、要に視線を戻す。こりゃこいつに聞いても時間の無駄でしかないなと確信したからだ。
「あれ、ヒナ知らない?王子様だよ!ほら、一年生の!」
「一年生」
「そう、んぇ〜…たしか、根駒 瑞生くん だったかな」
「あー…」
名前を聞いても全くもって身に覚えないが、ここで知らないって言おうものなら余計に長引きそうだからテキトーに相槌を打つ。しかも一年って、年下だったのかよ。
「で?どうしてそんな王子サマがオレなんかの手を握って離さないのかな?」
「……」
本当に石にでもされてしまったんじゃないかと思うほどピシッと固まって動かない。
まぁただんまりか。
勘弁してくれ。オレになんの恨みがあるっていうんだ。
三回目の盛大なため息が零れてしまいそうになる。
ってか、あー……まずい、このままだとそろそろ本格的に欠席にされる。
「ん゙〜〜〜〜……あのさぁ、王子サマくん、話し方分からなくなっちゃったのかなぁ?悪いんだけど、オレもう授業だから手、離してよ」
こんだけハッキリ言えばさすがに引くだろ。
空気を読めるやつならな。
「分かってくれるよね?」
「…………っ」
さすがに伝わったらしく、握りしめられていた指先の力が抜けた。
金色の間から見える白い肌がうっすら赤く染まっている。うわ、今ここで泣かれると絶対面倒なことになる。
「行こう、要」
「はいよ〜。じゃあまたね、王子様くん」
ニコニコと笑って手を振る要の背中を押して、強引に教室に向かう。
「『また』なんてあってたまるか!」
後ろから刺すような視線を感じるけど完全無視して、大教室がある棟へ早歩きで向かう。
棟へ入ると奴の視線も気にならなくなって、やっと肩の力を抜いた。
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