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【三歩】-4
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その日はサークルの合宿があるとかで、幸平は久しぶりに一人暮らしを満喫する予定だった。
以前から気になっていたアクション映画は昨日のうちに借りてきていたし、早々にシャワーも浴びて準備は万端だった。
髪を乾かすのもそこそこに電気を消し、意気揚々と立ち上げておいたパソコンの前に陣取る。再生ボタンを押しながら、冷えた缶ビールを開ければぷしゅっといい音がした。
一時間くらいした頃だろうか。突然鳴ったチャイムの音に幸平は舌打ちをした。中盤のいい場面だ。溜息をつき、誰だよと文句を垂れながら立ち上がるも、こんな時間に来るのはあいつくらいしかいないこともわかっていた。
鍵を開けると、案の定予想通りの人物がそこに立っていて、幸平はがっくりと肩を落とした。
「今日はユキいないよ?」
「あぁ、わかってる」
身長は然程変わらないが、インドアで日差しとは縁遠く青っ白な幸平に比べると、智明は中学で野球、高校でサッカーとがっつり運動部だったこともあり、全体的に筋肉質で体躯がしっかりしている。
テニスをずっと続けている弟の洋之だって引き締まった体をしているとは思うが、元々の骨格の問題なのか智明の方がより逞しく、男らしい印象を受けた。
大学生になってからはフットサルに力を入れているようで、ますます逞しさに磨きがかかっているような気さえする。
どうせ今日もサークル帰りなのだろうと踏んだ幸平は、改めて廊下に立つ智明の手元を見た。練習のある日はそれなりに荷物が多いのだ。しかし右を見ても左を見てもそれらしきものはどこにもなかった。
不思議に思い改めて智明の顔を覗き見ると、なんとも沈鬱な表情をしていて幸平のほうが驚いた。まるで干した洗濯物を取りこむ時に誤って地面に落としてしまったみたいな、それもどろどろの水溜りの上に――といった具合である。
その様子はさも心配してくれといわんばかりで、一瞬かける言葉を失った。
「まぁとりあえず入りなよ」
「……おう」
これで今日の映画鑑賞は終わったなと、活躍を見ることなく消す羽目になったパソコンの中のヒーローに心の中で謝りつつ、幸平は智明を部屋の中に招き入れた。
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