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【三歩】-8
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いつの間に眠ってしまったのだろう。なんだか懐かしい夢を見ていた気がする。
目を覚ますと幸平はまだ智明の手を握っていた。この手は洋之のものではないとわかっていても体を繋いだ後はこうするのが一つの習わしのようになっていた。
初めて智明と体の関係を持ったのは確かに五年前だが、それはたった一回のことで、次にセックスをしたのは今から数ヶ月前のことだった。
洋之は就職すると会社の寮に入ることが決まってこの家を出て行った。急に広くなった家が妙に落ち着かなくて、幸平は仕事が終わっても真っ直ぐ家に帰らず、寂しさを紛らわせるために夜の街をふらつくようになった。
幸平は根っからのゲイというわけではなかったが、洋之に彼女ができてからというもの、女性が雑菌に塗れた汚く底知れない生き物にしか思えなくなってしまっていた。女性の裸を見るのも嫌で、それならいっそ男の方がマシだと考えるようになったのだ。
夜の街ではこういう半端者を嫌う人は少なくなかったが、元々が少数派の世界なだけに、歓迎されることも多かった。アイドルというよりは俳優寄りの多少整ったマスクが効果を発揮してくれることも多かった。
週に二、三度、そうやってなんとか寂しさを紛らわせていたものの、家に帰ってひとりになれば結局虚しさは膨らむばかりで、一向に安寧という湖が満ちることはなかった。どうして自分はこんなにも洋之から抜け出せずにいるのだろうと、あっという間に干涸びていきそうな湖面を覗いては、そんな自分を恨めしく思った。
時々遊びに来ては泊まっていく洋之に、何度自分の気持ちを伝えようかと悩んだかしれない。
しかしいつもその先に見えるのは絶望という闇で、明るい世界で生きる洋之を闇に引き摺り込むことはできなかった。一時の衝動で大切な人を失うのだけはどうしても避けねばならなかったのだ。
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