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【三歩】-24
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目隠しをしないで智明とセックスをしたのはこの時が最初で最後だ。
幸平は複雑な思いで智明よりもひと回り小さいマグカップに口をつけた。幸平がカップを割った翌朝、智明は新しくペアで買い直そうといってくれたが、幸平が頷かなかったのだ。
これを自分の戒めにしたい。その思いはどこまでも勝手で自分本位であったが、智明はそれ以上何もいわなかった。
洋之に結婚宣言をされてから一ヶ月が経ったいま、幸平の心は落ち着いていた。今さらどう嘆いたって事が好転することはあり得ない。それならばこれからのことを考えるほうが重要だと、気持ちを切り替えることにしたのだ。
良くも悪くも洋之とは兄弟で、縁が切れることは余程のことがなければない。今、幸平を支えているのはその安心感のみではあったが、とても太い柱だった。
兄弟の絆を大切にするには、まずは心から洋之の結婚を祝ってあげることだ。そのためにも気持ちの整理をするのと併せて、あの部屋を片付けようと、そう思ったのだ。
「ユキへの気持ちは変わらない。それでも今が潮時なんだよ」
「そうか……わかった。幸兄がそういうなら、俺は何もいわない。あの部屋の片付けは俺も手伝うよ」
「ありがとう。助かるよ」
コーヒーの香りを胸いっぱいに吸い込んで、幸平はあの部屋で過ごした日々に想いを馳せた。
幸平の大好きなこのコーヒーも、洋之は苦手だった。いくら幸平が勧めても口をつける前に渋い顔をしては首を振るばかりだった。「こんなに美味しいのに」と幸平が残念がっていうと、「美味そうにコーヒーを飲む兄貴の顔だけで、俺は十分にコーヒーを味わえる」と洋之は真面目腐った顔でいった。
あれから洋之がコーヒーを飲めるようになったという話はきいていない。この間の会食でも、三人がコーヒーを頼む中、ひとりだけ紅茶を頼んでいたくらいだ。残念ながらあの時のコーヒーの味は微塵も憶えていないけれど、きっと深い香りがしていたのだろう。
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