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【三歩】-26
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洋之から電話があったのは、それからさらに半月程が経った金曜日の夜だった。その日は一日中晴れていて、満月が綺麗だったのを覚えている。
電話を取った幸平は、洋之の口から発せられた名前に思わずスマホを取り落としそうになった。
「兄貴?きいてる?だからさ、――さんっていう人から今日電話があって、変なこといってきてさ。兄貴がその……売?してたとかなんとか。自分はその客で?兄貴に会わせてほしいとか。男のおっさんだよ?兄貴の秘密も知ってるとかなんとかいってたけど、もしかしてこいつが兄貴のいってたストーカーなのか?」
洋之の声は明らかに訝しんでいる。売、という言葉に眉根を寄せているのが電話越しにも想像ついた。
おそらく洋之のいっている男はあの男だろう。なぜ今頃、しかも洋之に電話をしたのか。一体何を企んでいるのか。考える前に幸平の頭は真っ白になっていた。
「なぁきいてる?警察に連絡した方がいいんじゃないか?前にも相談してるんだろ?ほら、なんとか通達みたいなのあるじゃん」
「あ、いや……うん。そ、だな。一応警察に届けてみるよ。その男の電話番号、教えてもらえる?俺から警察に連絡するから……ごめん、ユキ。迷惑かけて……」
「なにいってんだよ。俺はこんな電話来たくらい迷惑じゃないけどさ、兄貴が心配なんだよ。俺は大丈夫だから。とりあえず外に出る時は智明でもなんでも、一緒にいてもらっていざとなったら盾にしろよ?」
「あぁ……わかった」
実際は全然わかっていなかったと思う。しかし幸平はわかったと答えていた。洋之に勘ぐられることがいちばん恐かったからだ。幸平の頭の中は、どうやって男を洋之に近づけさせないようにするかでいっぱいだった。
「それとさ、兄貴」
「ん?」
「……あ、いや……これはいいや。ごめん、なんでもない。それじゃあとにかく気をつけて。仕事も人の多い時間に行けよ」
「はは、ユキは口調が母さんにそっくりだ」
「はいはい。それじゃあ兄貴おやすみ。また連絡するな」
「ああ、ありがとう。おやすみ、ユキ」
まさかこれが洋之との最後の会話になろうとは。幸平も、洋之だってこの時はそんな予感すらしていなかった。
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