アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
【三歩】-27
-
智明が帰ってくるのを幸平は暗澹とした面持ちで待っていた。何から切り出そうかと、まずは自分の頭の中を整頓することから始めてみる。
しかし帰ってきた智明の顔を見た途端、幸平の頭からはあーでもないこーでもないと考えていたことがすっかり吹き飛んでしまった。
「ど、ど、どうした?その顔……」
顔色が悪いなんてもんじゃない。もしも被っているヘルメットがフルフェイスじゃなかったら、間違いなく職質をかけられていたことだろう。
「ん?あぁ……ちょっとな」
「ちょっとって……ちょっとどころじゃないだろ。酔っ払いと喧嘩でもしたのか?」
「んーまぁそんなとこかな」
幸平は額に手を当てた。立ち眩みがしたわけではなかったが、無意識に顔を擦っていて、この目の前に立つ、群れから追い出された雄のライオンのような智明を、一体どうしたものかと自分が考えあぐねていることを知った。
ひとまず「呆れた奴」とだけ感想を述べ、盛大に溜息をつく。そしてどこかにあったはずと、冷凍庫を開けて保冷剤を探した。
実際のところ相手が酔っ払いだったのかどうか幸平にはわからない。けれど智明が白を切るような素振りを見せたので、幸平は深追いしてまで事実を確認しようとは思わなかった。
「とりあえず、これで冷やしておきなよ」
「あぁ悪いな」
改めて観察するまでもなく智明は酷い有様だった。顔は部分的に紫色に変色しているし、口元は切れて血が滲んでいる。服にも所々ぽつぽつと血が飛んだような跡があり、もしかしたら相手は流血しているのかもと想像すると、さすがに目眩がした。
脱がせた服を洗濯機に放り込みながら、明日はこのまま仕事に行くつもりなのだろうかと、余計な心配までしてしまう。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
29 / 84