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【二歩】-1
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町田洋之にその電話がかかってきたのは、夜遅く日付が変わってからだった。相手は智明。幼馴染みだ。
智明とは同級生でその上実家が近く、生まれた病院も幼稚園も、小・中・高校も一緒。大学は別々だったが何かとしょっちゅう顔を合わせていたし、就職してから会う回数はぐっと減りはしたものの、付き合い自体は依然として続いていた。
まさに腐れ縁というやつで、四つ歳の離れた兄の幸平が少し前に智明と一緒に暮らし始めると、電話やメールはこれまで以上に頻繁になった。本来なら弟の自分が兄の傍にいてあげるのがいちばんなのだろうが、幸平は一緒に暮らそうという洋之の申し出に、頑として頷かなかった。父と母どちらに似たのかわからないが、幸平はこうと決めたら譲らない頑固なところがあった。
そんな幸平が家を出たのは洋之がまだ中学三年生の頃。幸平が大学生になってすぐのことだった。母との折り合いが悪く、息苦しかったのだろうと思う。
幸平がいなくなると家はちょっとした物音も響くくらい静かになった。毎日のようにきかされていた母との口論がぴたりとなくなり、両親は手に負えない息子がいなくなってどこか安堵しているようだった。しかし洋之はその静けさになんともいえない喪失感を覚えていた。
その喪失感は日に日に増していった。毎日が詰まらなく感じて、家にいることが堪らなく苦痛だった。欠けた穴を早く埋めたい。この穴は幸平の元へ行けばきっと満たされる。いつしか洋之はそう思い込むことで現実から逃避するようになっていた。
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