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【二歩】-3
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「もしもし?もしもしユキ!?」
洋之は握っていたはずのスマホが滑り落ちていくのにも気づかずに、その場にへたり込んでいた。スマホの向こうからは叫ぶような智明の声がきこえている。
「とにかく早く来いっ来てくれ……じゃないと幸兄が……幸兄が――ッ」
智明のいっていることは支離滅裂で、電話口では全く状況が飲み込めなかった。それでも幸平が危険な状態であるということだけは伝わってきた。
「兄貴が……死ぬ?」
まるで現実味がない。洋之は一方的に捲くし立てているだけの智明からの電話を切ると、脱力した体を引き摺りながら寮の備え付けのベッドに腰を下ろした。
「ああクソッなんでこうなるんだ」
忙しなく顔を手で擦り、混乱する頭を何度も前後に揺すった。
「……病院に行けばいいのか?けど来てくれって……一体どこに行けばいいっていうんだよ!」
貧乏揺すりが激しくなるにつれ、ドンドンと床を踏み鳴らす音も大きくなっていく。
父から電話がかかってきたのは、そんな洋之が癇癪を起こしかけた時だった。洋之は回らない頭で父の口から告げられた病院の名前を繰り返し呟いた。
「父さんは母さんと今から向かうから。洋之も覚悟して来てくれ」
電話は慌しくそこで切れた。誰かに呼ばれたようで、急いで切った感じだった。
「覚悟ってなんだよ……」
洋之は震える手でスマホを握った。まず調べなくちゃいけないのは病院の場所とタクシー会社の番号だ。しかし画面をいくら睨みつけても全く情報が頭に入ってこない。
それでもなんとかタクシーを手配すると、財布を片手に洋之は駆け出した。病院までは遠かったが躊躇いなどあるわけがない。洋之は運転手に行き先を告げると、俯き祈るように震える膝の上で手を組んだ。
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