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【二歩】-5
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幸平の葬儀は滞りなく行われた。ほぼ身内のみで行われたこともあって呆気ないものだった。ただ智明だけは会場の端の方で終始見守るように参列していた。
火葬場では、想像していたより綺麗に残った幸平のお骨が出てきて、その場に居た全員が涙した。洋之がひとつ手元に置いておいてもいいかと尋ねると、奇異な視線を向けられはしたが誰も何もいわなかった。
躊躇うことなく真っ先に、まだ熱い左手の薬指の骨を拾う。折り畳んでいたハンカチを広げて間に挟み、そっとポケットに忍ばせた。
「これでいつも一緒にいられるな、兄貴」
心の中でそう話しかけると、ポケットの中で小さな幸平が優しく笑ったような気がした。
葬儀が終わり、洋之は智明の元に向かった。ずっと端っこに佇んでいた智明は、憔悴しきった顔で植え込みのブロックに座り込んでいた。まるでこの世の終わりに立ち向かうことを諦め、何事もなく時間が過ぎ去ることに期待している端役のようだ。
洋之はそんな智明の前に立ち塞がると、侮蔑の眼差しで見下げた。
「……許さねぇよ。一生、俺は智明を許さない」
もちろんこれは本心だ。だけど一方で同時にそれは自分自身のことでもあった。
後悔していたのだ。あの時、電話でもいい。ちゃんと全部話していたら――こんなことにはなっていなかったかもしれない、と。
幸平に伝えていないことがあった。いおうか迷ってやめたのだ。直接幸平の顔を見て話をしたかったし、返事をききたかったからだった。まさかそれが裏目に出るとは思いもしなかったのだ。
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