アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
【二歩】-10
-
洋之が家を出てから母のプレッシャーは全て自分に集中して注がれるようになった。ことあるごとに町田家を継ぐのは洋之だからと、大して伝統もない家のくせにそれはそれは耳タコになるくらいいいきかせられていた。
ここ最近に至っては「結婚はまだか、子どもは早いうちがいい」と将来の話までするようになっていた。
そんな母を鬱陶しく思うも、この状況を自分が受け止めなければ、母が発狂しかねないだろうということも洋之は薄々感じとっていた。それだけ母は実際のところ洋之ではなく幸平に期待を寄せていたのだ。
その事実を幸平がどこまで理解していたのかのかはわからなかったが、この二人の溝が埋まることはまだまだ先のように思えた。そして素直になれない似たもの同士の二人の間に立ってバランスを取るのが自分の役目なのだと、洋之は誰にいわれずとも理解していたし、幸平が家を出るまではそのことに存在意義のようなものも見出していた。
もちろん始めから上手く立ち回れたわけではない。しかし中学生にもなれば二人を客観的にみることができた。母を宥めるのも愚痴をきくのも洋之の仕事だった。幸平が洋之に愚痴ることはなかったが、幸平もまた洋之の存在に救われているのだと、確証はなくともおぼろげに感じとっていた。
なぜなら洋之が母の愚痴をきいた後は、決まって幸平が「悪かったな」と洋之の頭を撫でてきたからだ。
普段幸平から洋之に触れることはない。だがこのときばかりは積極的に、それも仔猫に触れるように優しい手で洋之に触れてきた。
自分に謝るくらいなら母に謝ればいいのにと、当時は不思議に思っていたのだが、それでは意味がないのだと気づいたのは、学年がひとつ上がってからだった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
48 / 84