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【二歩】-11
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きっかけは噂だった。洋之に想いを寄せる女の子が現れると、決まって変な噂が流れるようになったのだ。
内容は様々だったが、毎回共通していたのは、その噂を耳にした途端、女の子が掌を返したように洋之を嫌厭したことだろう。
ひどい時には洋之が相手に何の感情を抱いていなくても、女の子とメールをしているだけでその現象は起こった。そして連絡を取らなくなると、何事もなかったようにぴたりと止むのだ。誰かに四六時中監視されているのでなければ、スマホを覗かれているとしか思えない。犯人は幸平ではないかと洋之が疑いを抱くのには、十分な出来事だった。
ある夜、洋之はわざと机の上にスマホを置いたまま布団に入った。普段から充電したまま寝ることはあるのだが、この日は触ってくださいといわんばかりにあえて見やすい位置にセットしておいたのだ。
「おやすみ」といつも通り先に布団に入る。毎日部活の朝練があるので、大方洋之のほうが寝るのが早いのだ。けれどこの日は眠気と戦いながら、バレないように意識だけ布団の隙間からじっと幸平に向け続けた。
一時間ほどすると、机で本を読んでいた幸平がさりげなく洋之の携帯を手に取った。ささっと目的のものをチェックするようにタップして、自分のスマホと見比べる。その指の動きに迷いはなく、僅かな時間だったが慣れた手つきで操作をしているのが背中越しにもわかった。
おそらく一度や二度のことではないのだろう。ワンテンポ置いて幸平のスマホが振動すると、幸平は満足したように笑顔をみせて、洋之のスマホを元あった場所に向きも角度も違わず戻した。
机に戻った幸平は、真剣な眼差しで、今度は自分のスマホの画面を見つめていた。何が映っているのか気になって布団の隙間から目を凝らすと、視線の先にあったのは見覚えのある洋之の写真だった。右に左に指を動かして何枚かスライドさせていたが、どれも最近洋之が学校で友達とふざけて撮ったものばかりだった。おそらくこれらの写真を転送していたのだろう。
幸平はその後もしばらくいくつかの写真を往復していたが、そのうちの一枚に目を留めると、「やっぱりこれかな」と呟いた。真剣そのものだった表情がみるみるうちに破顔する。こんな幸平の顔は見たことがなかった。まるで全身で愛おしいといっているかのようだ。
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