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【二歩】-13
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幸平が死んで、後に幸平の所有していたスマホを見た洋之は、嗚咽を堪えることができなかった。知ってはいたが、写真データの中にあった〝洋之〟と名前のついたフォルダには、想像を遥かに超える枚数の写真が入っていた。
その殆どが隠し撮りか勝手に洋之のデータを移したものだったが、中には幸平と一緒に撮ったものも数枚、ちらほらと並んでいた。部活の試合に応援に来てくれた時のものや、海に行った時のもの。どれも懐かしい写真ばかりだった。幸平も洋之も幸せそうに笑っている。
ふとあの夜の幸平の満足そうな笑顔が脳裏に浮かんだ。どんな気持ちでこれらの写真を眺めていたのかを思うと、洋之の胸は潰れるほど締め付けられた。
視界を滲ませ、なんとか最後の一枚まで見終わった洋之は、〝洋之〟フォルダの下に名前のないフォルダがあるのを発見した。好奇心に背中を押されて開くと、そこには動画がひとつだけ保存されていた。
ふたりで動画を撮った記憶はない。中身が全く想像つかず、洋之は寸前で開くのを躊躇った。けれど名前がないことが逆に引っかかって、逡巡した挙句、結局最後は好奇心を優先させることに決めた。
動画が再生を始めるのを、緊張の面持ちで見つめる。心臓の音が、耳の奥でうるさく鳴った。
雑音と一緒に画面の中に映し出されたのは、幸平の生前の姿だった。背景に映っているのは以前一緒に住んでいたアパートの部屋だろうか。スマホをどこかに立て掛けて撮影しているようだった。洋之は画面の中の幸平を瞬きもせず凝視した。
『ユキー結婚おめでとう!まさかこんなに早くユキが結婚すると思ってなかったから、正直兄ちゃんは驚きました。ユキとの思い出は上げればキリがないけど、いつでもユキは可愛くて優しくて……あ、可愛くては余計だったな。俺にとってはどれも最高の思い出ばかりだよ。俺はユキの兄ちゃんになれてよかったと、心から思ってる。だってすごく幸せだから。だからユキも俺のように、幸せに……愛する人と、幸せになってください。改めて、結婚おめでとう!大好きなユキへ、幸平より……それじゃあ、バイバイ』
照れ笑いを浮かべながら幸平が手を振っている。動画はそこで終わったが、洋之は最後まで見ていられなかった。見ようとする前に画面は次から次へと溢れてくる涙で、覆い隠されてしまった。
洋之は幾度となく動画を再生した。自身のパソコンにもスマホにもデータをコピーして保存した。
洋之の中には後悔しか残っていない。そしてその後悔は動画を見れば見るほど一層募っていった。けれど『大好きなユキ』という言葉が、洋之の凍りついた心をやんわりと溶かしたのもこれまた事実だった。
洋之は画面の中の幸平を見つめ、何度も何度も「俺も大好きだよ」と繰り返した。
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