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【二歩】-17
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洋之が左遷されて三ヶ月。新しい上司と同僚にも慣れて、ようやく生活も落ち着きつつあった。
取引先は新しく覚え直さなくてはならなかったが、場所が変わってもやることは変わらない。洋之は持ち前の明るさを武器に、どんどんと取引先の心を掴んでいった。
たった五人しかいない部署ではあったが、洋之はいつの間にか会社から必要とされる人材になっていた。逆にいえばたった五人しかいないからこそ、嫌でも一人一人が動かなければならないのである。本社にいる時とはまた違ったやりがいのようなものを、洋之はここにきて感じ始めていた。
それに忙しければ忙しいほど無駄なことを考えなくて済むというのもありがたかった。仕事に没頭するために、洋之は今まで誰も手をつけていなかったところへの新規開拓を積極的に行っていった。遅くまで残業して、帰って寝る。この一連の流れさえ間違わなければ、普通の人間でいられるのだとそんな風に思っていた。
「本日二時に企画事業課の宮原さんと約束をしております、ARIの町田と申します」
洋之は指紋ひとつない、ぴかぴかに磨かれた自動ドアを潜ると、真っ直ぐ突き進んだ先に設置されている、大小様々な箱をひっくり返して組み立てたような受付に顔を出した。
「少々お待ちくださいませ」
嫌味じゃない程度の化粧をした小綺麗な受付嬢が、手元の内線表に目を走らせながら受話器を手に取った。指先にまでしっかり意識が行き届いている。
「お疲れさまです。ARI株式会社の町田様がロビーにお見えです。はい……はい、わかりました」
受付嬢は静かに受話器を置くと品のある笑顔を洋之に向けた。
「すぐに宮原が参りますので、どうぞあちらのお席でお待ちください」
水仕事とは縁のなさそうな綺麗な指で指し示された方向を見ると、ガラスの扉の向こう側に商談机と椅子がツーセット、パーテーションを挟んで置かれているのが見えた。
「はい、ありがとうございます」
軽く会釈をして扉に向かう。初めて訪れた会社に、洋之は心なしか緊張していた。
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