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【一歩】-2
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智明は幸平を愛していた。それは恋愛という感情を習得してから変わらずずっとだ。でもその事実を幸平は知らない。知られないように嘘をついてきたのだから当然だろう。
中学の時に幸平が洋之に恋愛感情を抱いていると気づいたのも、本当は洋之を意識していたからじゃない。智明が幸平を意識していたから気づいたのだ。
智明が幸平を見る時、幸平は同じように洋之を見つめていた。そしてそれはただの弟を見つめるそれとは明らかに違っていた。視界に映ることさえできないことが悔しかった。だから智明は嘘をついた。自分は洋之が好きなのだと。幸平にどうしようもない嘘をついた。
洋之に彼女ができた日、これはチャンスだと思った。幸平を手に入れるチャンス。振られた者同士傷を舐め合うというのはよくあることだ。できれば目隠しなんてしたくはなかったが、例えネクタイで隠されていたとしても、シルクの向こうにある瞳を、智明はありありと想像することができた。
それから間もなくして洋之は彼女と別れたが、これが洋之の捻じ曲がった恋心だと気づくにはもう少し時間が必要だった。
洋之は幸平と違って、社交的で誰とでも仲良くなれるタイプの人間だった。中学の頃からテニスを続けているおかげで日に焼けて肌は黒く、体は引き締まっていたし、白い歯が覗けばいかにも笑顔が爽やかな好青年といった印象を受けた。
そんな雰囲気のある洋之を年頃の女の子たちが放っておく筈がなく、高校生の時には密かにファンクラブまでできていた。時々、女をヤリ捨てる最低男だの、少年院に世話になったことがあるだのといった噂も流れたが、逆にそれが箔になっていたことは、本人も知らないだろう。それなのに高校を卒業するまで特定の彼女ができなかったのは、結局のところ高嶺の花だったからだ。
だがそれも大学に入ると状況が変った。一気に世界が広がり、色んな価値観をもった様々な人間が周りに溢れた。これまでは一歩引いていた女の子たちも度胸がついて積極的になり、洋之に臆することなく接近する女の子が増えていった。そしてついに彼女ができたと知ったときは飛び上がりたいほど嬉しかった。これで少しは自分に可能性が巡ってくると思ったからだ。
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